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お金をかけずに「自分たちを大きく見せる」
商品を売るにあたって、「自分たちを大きく見せる」ことは重要な要素です。この表現にはやや誤解を招く側面もありますが、決して虚飾や誇張を意味するのではありません。むしろ、小規模な企業が信頼されるブランドとしての「格」を高めるには、商品も会社も外見や印象の工夫によってより良く見せる努力が必要だという意味です。
実際、ブランドとは一種の「格上感」を持つ存在です。たとえ商品やサービスの中身が優れていても、外見や印象が伴わなければ、適正に評価されにくくなります。そういう意味で、どう見せるかということにこだわらないのは、成長のチャンスを自ら手放してしまう行為ともいえます。あらゆるものが不足していた昔のように、物が良ければ売れるような時代ではないのです。
もちろん、品質や事実を偽るような行為は論外です。しかし、商品の価値、自社の価値を高めたいと願うなら、限られた予算のなかでも「どう見せるか」を工夫する姿勢は、極めて重要な企業努力だといえます。
それは、私が倒産寸前の状況から立て直しを図るなかで取り組んだブランディングの第一歩でした。資金に余裕がないなかで、「お金をかけずに、いかにして自分たちを良く見せるか」をとにかく必死で考え、実践しました。振り返ればその一つひとつの工夫が、結果的にブランド価値を押し上げ、大きな成果へとつながっていったのです。
屋号の変更とDMの工夫で注文数が伸び始める
温泉湯豆腐の通販を強化するにあたり、私が最初に取り組んだのが、通販商品の包装に使う掛け紙に印刷された屋号の見直しでした。当時は、社名である「有限会社平川食品工業」をそのまま記載していましたが、消費者の印象としては工業製品のようで味気なく、商品の魅力を十分に伝えられていないように感じました。屋号の変更に伴い新たに掛け紙をつくることにはそれほどコストがかからず、かつイメージの刷新を図る手段として効果的なのではないかと考えました。そこで、新たに名乗ることにしたのが、現在の社名にもなっている「佐嘉平川屋」です。
この新屋号のポイントは、「佐嘉」という地域名を冠したことにあります。当時の私はブランディングの専門知識を持っていたわけではありませんが、地域性を打ち出すことがブランド価値を高めるうえで有効であるという直感がありました。その後、地域性を前面に打ち出した豆腐屋というポジションを確立するのですが、地域とのつながりを感じさせる「佐嘉平川屋」という名称は、そうした展開にも適した選択となりました。
また、「佐嘉」という旧表記をあえて採用したのも、一つの意図的な演出です。旧表記である「嘉」は、画数が多く古風な印象があり、歴史的な重みや風格を感じさせる要素があります。実際には「佐賀」と「佐嘉」で発音の違いはありませんが、視覚的に「佐嘉平川屋」のほうが格上の印象を与えると考え、あえてこちらを採用したのです。
屋号の刷新に合わせて、既存の通販顧客に発送するダイレクトメール(DM)の内容も見直しました。それまでのDMはこういう商品がありますという単なるカタログのみを送っていましたが、温泉湯豆腐の歴史や魅力、つくり手の思いなどを丁寧に記載し、佐嘉平川屋のストーリーが伝わる文章をカタログに添えるようにしました。文章の脇には、一つひとつ社印を押して、その人のために特別につくった文章のような印象を与えるように工夫しました。
これらの取り組みは、一見すると小手先の策に思われるかもしれません。しかし、限られた予算のなかでできることを積み重ねることこそ、経営を立て直す最初の一歩です。やってみなければ分からないことも多く、たとえ予算が潤沢でなくても、勝機は工夫次第で生まれるということを、私はこの経験から実感しました。
実際、屋号やDMの内容を変更したその年から、温泉湯豆腐の通販の注文は目に見えて伸び始めました。通販は、お歳暮などで商品を受け取った人が、それを気に入り、今度は別の人への贈り物として利用するという“連鎖”によって広がっていきます。一つひとつの工夫を積み重ねることでブランドの信頼性が少しずつ向上し、その連鎖が加速したことで、結果的に注文数の拡大へとつながっていったのだと思います。
