遺言は「本人の自由」だが、できることはある
母の収入は、自分の年金と亡き夫の遺族年金を合わせて月11万円ほど。持ち家で暮らしているため「使う先もそんなにない。十分やっていける」と話します。また、母の財産は、今住んでいる土地と家、そして夫や親から引き継いだ預貯金およそ2,900万円です。
それらの資産を「自分の子どもに渡したい」と遺言書を残した場合、その内容は原則として本人の意思が最優先。たとえ家族であっても、その内容を無効にするのは容易ではありません。
ただし、子どもなど法定相続人には「遺留分」という最低限の取り分が保証されています。万一、母親が全財産を他人に遺すという遺言を書いた場合でも、遺留分侵害額請求によって取り戻せる可能性があります。
また、もし「他人の影響で遺言が書かされた」と疑われる場合は、弁護士や家庭裁判所に相談するのが現実的な対応策です。
孤独を防ぐには「制度」と「つながり」の両輪を
「山野さんとは以前帰った時に会ったことがあるんですよ。『自分は早くに母を亡くしたから、一人でいる高齢者を放っておけない』と言っていました。お金を目的に母に近づいたわけではなさそうですが、もらえるなら断らないんじゃないでしょうか。今後は私も無理してでも母の元に通おうと思っています。ですが、それを母が求めているのか、もはやわかりませんね……」
そう語る真一さんの悩みは、すぐに解決とはいかないようです。親の孤独と子の事情、その間に生まれるすれ違いは、どの家庭にも起こり得ます。
「薄情」と責められて、そこで引いてしまえば、その溝は埋まりません。だからこそ、冷静に、そして家族の愛情を示して対処することが大切です。“遠くの家族より近くの他人”と思われないように――。 心の距離を、もう一度測り直すときが来ているのかもしれません。
