「お前は薄情者」──田舎の母の言葉に凍りついた54歳息子
「お前は子どもなのに、たまにしか顔を見せない。ちょっと薄情だよね。私ね、いつも面倒を見てくれる山野さんに遺産を渡したいの。それで構わないね?」
電話口でそう言われ、思わず言葉を失ったのは、会社員の高橋真一さん(仮名・54歳)。相手は、地方で一人暮らしをしている82歳の母。父の死後も地元に残り、近所づきあいをしながら暮らしていました。
母は以前から「近くに住み、在宅で仕事をしているという山野さん(50代男性)が、困っていると買い物や病院に行くのを手伝ってくれる」と話しており、親切な人がいてよかったと真一さんも安心していたといいます。
ところが、まさかその人に遺産を渡したいと言い始めるとは──。さすがに同意しかねました。
「遠くの家族より近くの他人」になりやすい時代
「母が寂しさで他人にすがっているのなら、自分にも責任がある。ただ、母は住み慣れた田舎から出たがらないし、僕も仕事や家庭がある。年に1~2回しか帰れない。それって薄情なんでしょうか……」
そう語る真一さんの言葉には、都会で働く世代の葛藤がにじみます。多忙な暮らしに追われ、親のもとへ頻繁に通えない──そんな人は少なくありません。
一方で、高齢の親にとって「毎日会話できる人」「困ったときに助けてくれる人」はかけがえのない存在です。結果的に、“遠くの家族より近くの他人”のほうが心を許せる関係になってしまうことも。こうした信頼関係をきっかけに、遺言書で近所の知人や介護者に財産を残すケースも少なくありません。
一方で、本人にとっては感謝の証でも、家族から見れば「財産目当てに親に近づいたのでは」と疑心暗鬼になることもあります。
