まずは、子どものいいところを探してほめる
食卓を囲んで親子で会話を、という話をすると、中高生の保護者からは「子どもが反抗期で口もろくにきかない」「ほとんど話をしようとしない」という声が上がります。
確かに子どもが思春期を迎える頃から、それまでは学校や友達の話を無邪気にしてくれていた子も、だんだんと口が重くなります。親が問いかけても「別に」「普通」くらいしか答えないという子も多いものです。それは、親には話したくない世界ができてくる、成長の一過程でもあります。
ただ、だからといって親子の会話を完全に放棄してしまったり、子どもの機嫌をうかがって腫れ物に触るような態度をとるのは、よくありません。
親御さんに覚えておいてほしいのは、子どもは「ほめてくれる人の話に耳を傾ける」ということです。ほめることは、教育でいちばん大事なことです。大人だって、人からほめられればお世辞かなと思っても、悪い気はしないものです。
まして子どもは大人、特に自分の親にいつも認められたいと思っていますから、ほめられれば本当に嬉しいと感じるものです。それは難しい年頃といわれる中高生でも同じです。
ところが最近の親御さんたちは、わが子をほめることを忘れてしまっている人がとても多いようです。そして口を開けば、やれ勉強しろ、ゲームばかりするな、部屋を片付けろといつも小言ばかり―というのでは、子どもも口をききたくなくなります。
中高生の頃というのは、勉強や部活動などで競争を強いられ、自己の力を周りと比較されることが増えます。そのため子ども自身もさまざまな葛藤を抱えています。それなのに「できていないこと」や「足りないこと」ばかりを指摘されれば、傷ついて反発したり、自分の世界に引きこもるようになってしまいます。
親として子どもを叱らなければならないことも、当然あるでしょう。しかし、その場合も、何かほめる材料を探すことが先決です。一通りほめた後に、そっと諭すことが、子どもが素直に聞き入れられるようになる最良の策なのです。
「うちの子はこんなことできて当然」という考えはNG
私はこれまでに非行や不登校に陥った子、成績不振で悩んでいるたくさんの子を飛躍させてきたため、「何かコツはあるんですか」と質問されることがよくあります。
私にはコツと言えるようなものは何もないし、特別なことをしているつもりもありません。ただ振り返ってみて一つだけ言えるのは、どんな子でも、初めて会ったときにその子の良い点がすぐに目につくことです。ほかの子にはない、その子だけの良さをどの子も必ずもっています。私はその点を口に出して、大いにほめることにしています。
先日も、学校の制服を着崩してシャツの裾をゾロリと出している男子生徒がいたので、「君はなかなかスラッと背が高くて、姿勢がいいね」とほめました。それから静かに「シャツをそういうふうに着ていると、せっかくイケメンなのにヘンに見えるよ」とさりげなく伝えたところ、その男子生徒はそそくさとシャツの裾をしまいました。
食事だってそうです。「好き嫌いしないで食べなさい」と叱る代わりに、「野菜を食べるとますますかっこよくなるよ」と言えば、子どもも「そうかな、食べてみようかな」となります。
ちょうどスポンジのようなものです。スポンジは水をいっぱい含んでいるときに水を加えても入っていきません。しかし水をグッと絞ると隙間ができ、次にはぐんぐん水を吸います。これと同じで、ほめられると子どもの心にゆとりができ、次の言葉がスーッと染み込んでいくようになるのです。
「ゆめゆめ反対のことをやらないように気を付けてください。叱ったり愚痴を言ったりした後に、なにかほめてもなんにもなりません。効果はマイナスです」と私が話しますと、「先生がそう言われるのでほめようとは思うんですが、うちの子はほめるところが一つもないんですよ。頭にくることばかりなんですから」とたくさんのお母さんたちが言われます。
しかし、それは親御さんが「うちの子は、こんなことはできて当然」と考えているからではないでしょうか? よく見つめてあげてください。食卓で向かい合っているときなら「今日は残さず食べられたね」でもいいし、「学校で頑張っているね」でもいいのです。どんな子にも必ずほめるところはあります。
子どもを変えようとせず、自分が変わることです。そうすれば、子どもは確実に変わります。