「なんで帰ってきたんだよ」父親との関係が急速に悪化
「『おまえなんかに世話されたくない』と父から言われたんです。目の前が真っ暗になりました」
そう語るのは、埼玉県在住の森田雄一さん(仮名・42歳)。地方都市で暮らす両親のもとに戻って半年、父親との関係が急速に悪化したといいます。
雄一さんは、東京都内のIT企業で働いていましたが、母が脳梗塞で倒れ、要介護3と認定されたことを機に、父と2人きりになることを心配して実家へのUターンを決意しました。
「父は80歳で、認知症の診断は受けていませんが、物忘れや怒りっぽさが目立ってきていて…。母の介護も1人では無理だろうと思ったんです」
ところが、帰省してすぐに父の態度は変わり始めたといいます。
「何を言っても怒鳴られる。介護のことを相談しても、『おれのことはおれが決める』の一点張り。ある日ついに、『なんで帰ってきたんだよ』『おまえの世話になんかなりたくない』と、追い出されかけました」
親の介護をめぐるこうしたすれ違いは、決して珍しいことではありません。
厚生労働省『国民生活基礎調査』(2022年)によると、在宅介護の中心は依然として家族であり、介護者の約6割は「同居する親族」です。「親の面倒を見るのは当たり前」という無言の圧力も根強くあります。
とはいえ、介護は一人で背負えるものではありません。制度や支援を活用しないまま家族だけで抱え込めば、共倒れにもなりかねないのです。
その後、雄一さんは市の地域包括支援センターに相談。ケアマネジャーの協力を得て、訪問看護やデイサービスの利用を提案しました。
「プロの人が説明すると、父も不思議と聞く耳を持ってくれるようになって…。『息子より他人の言うことは聞くのか』と正直モヤモヤしましたが、少しずつ関係も改善していきました」
ただ、それでも父の言葉は胸に残っているといいます。
「帰ってきた自分の選択は正しかったのか、今でも悩みます。でも、母は『助かったよ』と言ってくれたし、自分がやれるだけのことはやったとも思っています」
