(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢期に離婚を選ぶ「熟年離婚」。結婚生活の長さに関係なく、人生の終盤に「別れる」という選択をする人が少なくありません。その背景には、夫婦間の価値観のずれや、長年のわだかまり、定年後の生活の変化などが複雑に絡み合っています。しかし離婚後、「一人で暮らすことの難しさ」に直面する高齢者も少なくはありません。

「あの人は、定年してから変わった気がします」

「若い頃は、口は悪くても働き者で、頼れる人だったんです。でも定年してから…なんというか、“監視されている”ような感覚があって」

 

そう話すのは、東京都在住の澤田幸子さん(仮名・72歳)。3人の子どもを育て上げ、60代で夫とふたり暮らしになったものの、退職後の夫との生活に違和感を覚えるようになったといいます。

 

「朝から晩まで家にいるようになって、食事の味付けから洗濯の干し方まで細かく口を出すようになりました。話しかけても返事がないか、舌打ちされる。ずっと家の中に“圧”があるような、息が詰まる感じでした」

 

「何度も話し合おうとしました。でも、“俺は悪くない”の一点張りで、話し合いにならない。ある日から、私の口癖が“もう何も言わない”になっていたんです」

 

子どもたちには迷惑をかけたくないという思いから、長年我慢を重ねてきた幸子さん。しかしある冬の朝、何気なく鏡を見たとき、自分の表情の険しさに思わず立ち止まったといいます。

 

「これが、私の人生の終わり方でいいのかと、ふと思ってしまったんです」

 

離婚を決めた幸子さんに対し、夫は淡々としていたといいます。

 

「『俺のせいにするな』とだけ言われて、話はすんなり通りました。あの人なりに薄々わかっていたのかもしれません」

 

家は夫名義でしたが、婚姻期間中に取得した財産であれば、本来は財産分与の対象になり得ます。預貯金なども一定額は分与されましたが、長年専業主婦として家計管理を任されていた幸子さんは、「これ以上争いたくない」と最低限の金額だけを受け取り、離婚後すぐに家を出る選択をしました。年金は月12万円ほど。決して“余裕のある出発”ではありませんでしたが、そんな彼女に手を差し伸べてくれたのが、3歳下の妹・美和子さん(仮名)でした。

 

「『一緒に暮らそう』って言ってくれたとき、情けなくて泣いてしまいました。でも、あの一言がなかったら、今の私はなかったと思います」

 

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