重要資料(赤紙)
調査官は、調査と並行して他社の申告状況を確認し、関連資料を収集します。建設業を例にすると、調査官は下請業者の支払外注費を収集し、さらに孫請業者へと川下に向かって資料を追跡します。こうして業界全体の資金の流れを把握できるのです。
収集した資料と収集先の申告額をKSKシステムなどで分析すると、想定される事業規模と申告額に差がある場合があります。「売上が除外されているかもしれない」との疑いがあれば、さらに調査を加え、いよいよ脱税の疑いが強くなると「重要資料」を作成します。
「重要資料」は、かつては赤い紙に手書きで記載していたため「赤紙」と呼ばれました。現在は電子化され、統括官が管理しています。重要資料は収集者の努力の結晶であり、想定どおりの成果が出ればフィードバックが行われ、調査官同士の信頼関係構築にもつながります。
長期未接触による選定
都市部では、サラリーマンの医療費控除や住宅ローン控除による還付申告、株式や投資信託の確定申告が増加したことにより、税務署は慢性的な人手不足に直面しています。
長期間調査に入っていない事業者は「長期未接触」と呼ばれ、正しい申告を促すための表敬訪問として調査対象に選ばれることがあります。申告納税制度の理念は納税者自身が計算し納税することですが、長期未接触の事業者に調査に入ることで、正しい申告を意識させる効果があるのです。
インターネット・国際取引の監視
国税局には、電子商取引を専門に監視する「電商チーム」があり、ネットモールやオークションサイトを監視して、調査対象者の抽出を行っています。ネットの普及により、初期投資が少なくても稼げる事業者が増え、未申告のケースも多く見られます。
また、税務署には、調査情報の収集を専門に行う特別情報官や国際取引を監視する国際専門官が配属され、保有資料や国外送金などをもとに脱税を追跡しています。情報収集の多角化によって、きめ細かい脱税監視網を張りめぐらしています。
2017年には国税犯則取締法(2018年に国税通則法に編入され廃止)が68年ぶりに改正され、査察権限が強化されました。クラウド上のメールや会計帳簿も、対象者の同意なしで開示要請できるようになり、海外子会社や会計事務所とのやり取りも調査可能になりました。
これにより、絶対に見つからないと思っていた脱税も、ある朝、玄関の監視カメラに複数の査察官が映し出されることもあり得るのです。
*本記事は『国税調査トクチョウ班』(法令出版)のコラムをリライトしたものです。
上田 二郎
元国税査察官/税理士
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