「広い庭と静かな環境がほしかった」
そう話すのは、会社員の堀口翔太さん(仮名・39歳)。妻の美沙さん(37歳)と小学生の息子の3人暮らしです。2年前、夫婦は世帯年収1,250万円という安定した収入をもとに、住宅購入を検討し始めました。
「最初は港区のタワーマンションを見ていたんです。70㎡で8,000万円台。でも、住宅ローンを35年組んだら、毎月の返済が25万円以上になる。子どもの教育費や老後のことを考えると、無理はできないと思いました」
代わりに選んだのは、都心から電車で50分ほどの郊外エリア。土地付き新築一戸建て(建売価格:6,300万円)。延床面積100㎡、駐車場2台分、そして念願の小さな庭がありました。
「庭で子どもが遊ぶ姿を見て、これでよかったと思ったんです。当時は心からそう思っていました」
しかし、引っ越して2年。休日のリビングで、翔太さんはふとつぶやきました。
「……最近、誰にも会わないな」
美沙さんも同じ思いを抱えていました。
「平日は職場と家の往復。近所づきあいは挨拶程度。息子の友達の家も遠くて、遊ぶのも車移動。便利さより“距離の遠さ”を感じます」
都心では徒歩圏内にコンビニやスーパーがあり、職場への通勤時間も片道30分以内。今は毎朝6時台に家を出て、帰宅は21時すぎ。家族全員が疲れ切っていました。
「家は広くなったのに、家族で過ごす時間は減りました」
さらに、郊外の戸建てには見えないコストが潜んでいました。固定資産税や都市計画税のほか、庭木の剪定や外壁塗装など「メンテナンス費用」が想像以上にかかるのです。
「芝生の手入れを業者に頼んだら、年2回で6万円。外構の塗り直しの見積もりを取ったら100万円近くかかると聞いて、正直、驚きました」
さらに、郊外に持ち家を構える共働き世帯では、通勤や買い物に車を使う機会が多く、ガソリン代などの交通費がかさみやすいほか、光熱・通信費も都市部より高くなることがあります。広い住宅ゆえの冷暖房費の増加や、生活圏の分散による支出増など、郊外ならではのコストが家計を圧迫するケースも少なくありません。
「マンションの管理費・修繕積立金がいらない分、得した気でいたけど、実際は“別の形の出費”が増えていました」
