(※写真はイメージです/PIXTA)

介護は突然やってきます。最初は「家で面倒を見る」と決めた家族も、体力・時間・お金の限界に追い込まれることがあります。介護保険や制度が整っているように見えても、現実には“家族の努力”に依存している部分が多いのが実情です。

「助けて」母から突然の電話を受けた夜

「夜中の2時に、電話が鳴ったんです。『助けて…トイレに行けないの』って」

 

そう語るのは、会社員の田中健一さん(仮名・52歳)。実家でひとり暮らしをしていた母・節子さん(83歳)は、2年前から要介護3の認定を受けていました。母の年金は月12万円。週に3回の訪問介護を利用しつつ、息子が休日に通って世話をしていました。

 

「介護サービスを増やしたかったけど、自己負担もあるし、デイサービスに行きたがらないんです。『知らない人ばかりの場所は嫌だ』って」

 

しかし、その“優しさ”が、少しずつ彼の生活を圧迫していきました。

 

母が転倒してから、トイレ介助や食事介助が必要になり、健一さんは毎晩のように実家へ通うようになりました。

 

「仕事が終わってから車で40分。母を寝かせて自分の家に戻ると、もう深夜。次の日は5時起きです」

 

疲労は蓄積し、ミスも増えました。会社では上司に「最近、顔色が悪い」と言われ、同僚からは“介護離職”を勧められるほど。

 

しかし、離職したら生活が立ち行かなくなる。母の年金だけでは介護サービスを十分に使えず、自分の収入がなければ共倒れです。

 

「誰かに頼みたくても、頼れる人がいない。介護保険があるって言っても、現実は“家族の持ち出し”ばかりでした」

 

ある夜、仕事のトラブルで帰宅が遅れ、母がトイレで転倒。

 

「病院で骨折と診断されて、そのまま寝たきりになってしまったんです」

 

在宅介護は一気に重度化しました。オムツ交換、食事介助、服薬管理。1日数時間おきに呼ばれ、睡眠は細切れ。

 

「ある日、母に『もう寝かせてくれ』って言われたんです。優しい言葉なのに、心のどこかで“ほっとした自分”がいました。そんな自分が怖かった」

 

田中さんはケアマネジャーに相談しましたが、制度の壁が立ちはだかります。要介護3では、1ヵ月あたりの介護保険利用限度額は約27万円(自己負担1割で2万7,000円)。しかし、実際に介護事業所を利用するには、交通費・オムツ代・医療費などの自己負担分が上乗せされます。

 

「週3回の訪問介護と週1の通所リハだけじゃ足りない。でも、回数を増やせば自己負担が月5万円を超える。年金12万円ではどうにもならないんです」

 

“介護保険があっても、暮らしを支えきれない”という現実が浮き彫りになっています。

 

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