(※写真はイメージです/PIXTA)

相続は、家族が知っていると思い込んでいた「お金の流れ」を、思わぬ角度から照らし出します。遺言や分割協議が終わったはずの財産でも、名義や権限の取り扱い次第では“見えないところ”で動き続けることがあります。本記事では、祖父の死から7年後、家族が偶然見つけた通帳の記録から発覚した「予想外の人物による入出金」と、その背景にある制度や実務のポイントを見ていきます。

「任意後見」と「私的委任」の決定的な違い

私的な財産管理委任契約自体は違法ではありません。ただし、事後のチェック体制が弱く、透明性の確保が肝心です。判断力の低下が見られる場合は、公正証書による任意後見契約や見守り契約+財産管理契約をセットにし、のちに家庭裁判所の監督を受けられる体制にしておくと安心度が高いでしょう。

 

私的委任は迅速ですが、第三者の監督(公的モニタリング)が入らないため、家族は通帳のコピー保管、月次の入出金報告書、レシート添付といった“見える化”を求めることが望ましいと言えます。

 

さらに押さえたいのが、相続と税の観点です。

 

相続税の基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人。祖父の相続時に適切に申告済みでも、その後の預金移動が祖母の財産で行われている以上、祖母の死亡時には再度の相続税対象になります。

 

生前の“謝礼”は原則として祖母の生活費の範囲なら問題視されにくい一方、多額・高頻度で、役務の対価を超える場合は贈与性が問われる可能性があり、贈与税や将来の遺留分(相続人の取り分の最低保障)争点に発展することがあります。

 

2019年の民法改正で預貯金の仮払い制度が導入され、相続開始後、各相続人が金融機関ごとに150万円を上限として一定額の引き出しが可能になりました。逆に言えば、相続開始前は名義人の明確な意思・権限が大前提で、代理人の裁量での大口移動は記録・根拠の保存が不可欠です。

“疑い”ではなく“検証”へ…家族がやった3つのこと

三谷家が選んだのは、感情的な追及ではなく、手順に沿った検証でした。

 

●取引履歴の開示請求

 

相続人(将来の相続関係人)として、過去の入出金明細の取得を金融機関に依頼。代理権の根拠書(委任契約書、届出書)、各手続きの伝票コピーも可能な範囲で写しを確保。

 

●第三者の専門家を“同席者”に

 

税理士・司法書士を交え、謝礼水準や支払いの妥当性を相場(介護ヘルプや家事代行の時間単価等)と比較。月次報告フォーマットを作成し、以後は家族LINEにPDF共有。

 

●契約の“格上げ”検討

 

祖母の意思がはっきりしている段階で、公正証書による任意後見契約の締結を検討。発効(後見開始)前でも見守り契約+財産管理契約で権限・報告義務を明確化し、家庭裁判所の監督開始を視野に入れました。

 

伊藤さんとは冷静に話し合い、謝礼の上限設定・実費精算のルール化、大口取引は家族同席を取り決め。結果、関係性は保たれ、支払いの透明性も担保されました。

 

 \1月20日(火)ライブ配信/
調査官は重加算税をかけたがる
相続税の「税務調査」の実態と対処方法

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