通帳に残された“静かな変化”
「こんな通帳、見たことない…」
会社員の三谷大輔さん(仮名・46)が、祖母・節子さん(仮名・88)の入院に伴う家計整理を手伝っていたときのことです。封筒に束ねられた通帳は、祖父・康夫さん(享年82)が7年前に亡くなったころから残高が数千万円単位で上下し、さらに毎月きっちり一定額の引き落としや振込が続いていました。
祖父の相続総額は約3億円。当時は自宅と賃貸不動産の一部を売却し、税理士の助言で現預金の比率を高めたはず——家族はそう理解していました。遺産分割協議書も作成済み。主な預金は祖母名義に集約していたのです。
入出金明細をさらに追うと、ATM出金の控えに見慣れない「代理人」のイニシャルが。銀行窓口での照会で分かったのは、代理人カードの名義が近所に住む70代女性・伊藤さん(仮名)であること。祖母の旧友で、体調を崩してから買い物や病院付き添いをしてくれていた人でした。
「えっ、親族でもない人が…?」
家族は驚きましたが、銀行は口座名義人(祖母)の依頼による代理人カード発行であり、書面や本人確認は適正だったと説明。残高の大きな移動は、賃貸物件の売却代金の入金→他行への定期預金の組替え→解約など、いずれも祖母の署名・押印で行われていました。
祖母に確認すると、伊藤さんは「財産管理の手伝い」をしていたとのこと。祖母は字を書くのが難しくなり、財産管理委任契約(私的契約)を交わしていたのです。契約書の写しには、公共料金や医療費、生活費の支払い代行のほか、「大口の解約・新規預金の組替えは本人同席」と明記。たしかにその通り実行されていました。
ただし明細には、定期的な“謝礼”の振込が複数本。月数万円から多い月は10万円超。「助かっているから当然」と祖母は言いますが、家族は額の妥当性に不安を覚えます。
