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事業に利益を投資することで実現する「自己増殖サイクル」
さらに重要なことは、同社のように素晴らしい企業のEPSが、時間の経過とともに複利的に増大するということです。素晴らしい経済性を有した企業は、自らが産み出した利益を自社の素晴らしい事業に再投資することで、そのEPSを複利的に自己増殖させることができます。これこそが素晴らしい企業にのみ許された「自己増殖サイクル」なのです。
この自己増殖サイクルは、優れた企業が稼ぎ出した利益をそのまま株主に還元するのではなく、再び自社の強みを活(い)かす事業に投じることで実現します。
たとえば、新規市場への進出、革新的な製品開発、効率的な生産設備への投資、あるいは優秀な人材の採用です。こうした再投資は翌年度以降の利益を押し上げ、その増えた利益がさらに再投資に回される。このサイクルが継続されることで、企業価値はまるで自己増殖する生物のように複利で成長していくのです。
仮にある企業が年間10%の利益成長を維持できたとすれば、1年後には利益は1.1倍、10年後には約2.6倍、20年後には約6.7倍になります。オーナー型株式投資家は、この仕組みを理解しているからこそ、企業の持続的な成長に長く寄り添います。
素晴らしい経済性を持った企業が、この複利効果を享受するための最大の要素は一体何でしょうか? それは「時間」です。どれほど優れた企業であっても、一夜にして偉大にはなりません。時間をかけて利益を積み重ね、それを再投資に回し続けることで、ようやく企業価値が大きく育つのです。
だからこそ「オーナー型株式投資家」はこのような自己増殖する企業の株式を長期にわたって保有し続けることが重要になります。株式を短期間で売買し、目先の値上がり益を狙う投資スタイルは、この複利の恩恵を途中で放棄してしまうことを意味します。これは個別企業の株式であろうと500社集まった「S&P500インデックス」であろうと同じです。
オーナー型株式投資家が意識すべき「企業の稼ぐ力」
とくに強調したいのは、売却判断において「あなたがこれまでいくら投資してきたか」は全く関係ないと考えるべきであるということです。売買型株式投資家がよく陥るのは、「自分が買った価格より上がったから売る」「損失が出ているからとりあえず塩漬けにする」といった「PL発想」に基づく判断ではないでしょうか。
しかし、オーナー型株式投資家が意識すべきなのは、自分が儲(もう)かっているのか損しているのかではありません。重要なのは、「その企業がこれからも複利的に稼ぎ続ける力を有しているかどうか」です。
株価がたまたま上がっても、企業の稼ぐ力が衰えていれば、それは単なる市場の気まぐれに過ぎません。逆に、一時的に株価が下がっても、強固な事業基盤があり優れた経営陣がいる限り、あなたの持つ所有権の価値は時間とともに育ち続けるのです。
オーナー型株式投資家が株式を売却する合理的な理由は、主に二つに限られます。
一つ目は、その企業の持つ経済性が損なわれたとき。競争優位性を失ったり、経営陣が信頼できなくなったり、事業環境が大きく悪化した場合は、どれほど長期保有を旨としていても、売却するべきです。なぜなら、複利成長の源泉である「稼ぐ力」が失われたなら(プラスサムゲームでなくなる)、その企業に資本を預ける意味がなくなるからです。
二つ目は、あなた自身が現金を必要とする状況になったときです。教育費、住宅購入、医療費など、人生の大きな支出に備える場合、大学院進学や留学、必要な資格試験のための支出など、資産の現金化はやむを得ないでしょう。
また趣味や旅行など人生の楽しみのためには躊躇(ちゅうちょ)せずにお金を使うべきです。なぜなら人生はお金を貯めるためにあるのではなく、楽しむためにあるからです。「使うべき時に使う」ために運用しているのに、それを使えないのであれば全く意味がありません。
しかし、この二つ以外の理由、特に「自分の買値より上がっているから(儲かるから)」という理由で売却を検討するのは、オーナーとしての本質を見失う行為です。「あなたがいくらで買ったか」は、あなたが保有する企業価値にとって一切関係がありません。
それはあくまであなた個人の過去の取引記録であり、未来の価値創造には何の影響も及ぼさないからです。売買型株式投資の世界では簿価が「勝敗」を決める指標になるかもしれませんが、オーナー型株式投資では、そんな短期的な損益計算は重要ではないのです。むしろ、そうしたPL発想を捨てることで、長期での複利効果という最大の武器を最大限に活用できるのです。
