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FIREという幻想〜お金にとらわれるな~
FIRE(Financial Independence, Retire Early)という言葉が広く語られるようになりました。「経済的に自立し、早期にリタイアして自由に生きる」という理念は、一見すると合理的で魅力的な生き方のように映ります。
しかし、「お金があれば自由になれる」という発想の裏には、「お金がないから自由になれない」という前提が潜んでおり、逆説的ではありますが、この考え方は「お金への従属」を意味しているのです。真の自由とは、外的な条件に依存せず、自らの意思と価値観によって生き方を選べる状態を指すはずです。FIREが提唱する自由は、実のところ「お金に縛られた不自由の裏返し」なのかもしれません。
FIREを目指す人々の中には、お金の本質に対する理解が浅いまま、早期リタイアを目的に掲げてしまっているケースも少なくないように思います。本来、お金とは他者への価値提供の結果として得られるものであり、目的ではなく手段にすぎません。にもかかわらず、資産額やリタイア年齢といった「結果」ばかりに焦点が当たり、肝心の「価値をどう生み出すか」というプロセスを軽視してしまう。これは因果関係を取り違えた思考であり、持続的な豊かさから遠ざかる行動でもあります。
たとえばイソップ童話の「金の卵を産むガチョウ」のように、短期的な利益に目を奪われ、本来育てるべき価値の源泉を自ら断ち切ってしまうことになりかねません。これはある意味、「考えない人間」の一類型なのだと思います。
さらに、FIREを追い求めるなかで「労働=苦役」という誤った前提が強化されているようにも感じます。将来の自由のために今を我慢する――確かに一見、努力の美徳のようにも見えますが、その実、今この瞬間の意味や価値を否定してしまっている側面があります。
しかし労働とは本来、「他者の課題を発見し、それを解決する」という意義ある営みです。すべての仕事が楽しいとは限りません、むしろ辛い事の方が多いでしょう。しかしそうであっても「誰かの役に立っている」という実感こそが働く喜びそのものであり、精神的な自立の源でもあるのです。このような「今ここにある価値」を無視した生き方は、どれだけ資産を築いても、心の豊かさにはつながりません。
このように考えると、FIREという概念は、社会との積極的な関わりを重視する「労働者3.0」や「オーナー型株式投資」の思想とは、決定的に異なるスタンスに立っているでしょう。労働者3.0は、事業の本質を理解し、他者と共に価値を創出する主体的な働き方を志向します。オーナー型株式投資もまた、企業の成長に資本を通じて参画し、資本家として社会の価値創造を加速させ、その果実を長期的に享受するという、社会との連続的な関わりの上に成り立っています。
どちらも、「お金はありがとうのしるし」であるという、お金の本質を理解した上での実践がベースとなっています。FIREのように「社会から離脱する自由」ではなく、「社会の中で価値を生み出しながら自立する自由」こそが、持続的な幸福と真の自由に通じる道だと、私は信じています。
