(※写真はイメージです/PIXTA)

富裕層が資産形成を考える上で、企業型DC・iDeCo・NISAは非常に効果的な税制優遇の制度です。長期的な資産形成を目指すのであれば、徹底活用しない手はないでしょう。 とくに、優良企業の成長に長期で伴走する「オーナー型株式投資」においては、複利効果を最大化する税制メリットの活用が成功の鍵を握ります。 本記事では、ファンドマネージャー奥野一成氏が提唱する「オーナー型株式投資」の手法から『税制優遇の活用法(企業型DC・iDeCo・NISA)』について、富裕層向けの応用戦略にも触れながら解説します。

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税制優遇を使い倒す〜企業型DCが最優先~

資産形成を考える上で、最も優先すべきなのは、今ある国の制度を最大限「使い倒す」ことです。これらの制度を使わずに資産形成、年金形成をするということは、国が高速道路を整備してくれているのに、わざわざ舗装されていないあぜ道を行くようなものです。

NISA、iDeCo、企業型DCは、いずれも国が個人の資産形成や年金形成を後押しするために用意した税制優遇制度であり、これを活用するかどうかで長期的な金融資産の成長スピードは大きく変わってきます。

パターンA:企業型DC>iDeCo>NISA

この3制度の優先順位を税制優遇の観点から整理すれば、私見では明快に「企業型DC>iDeCo>NISA」となります。

個人の年金形成をサポートする制度である企業型DCとiDeCoは掛金が全額所得控除となり、積立によって課税所得が減少するため、実質的な節税効果が生まれます。さらに運用益も非課税、受取時には退職所得控除や公的年金等控除も適用されるため、制度全体として極めて高い税制メリットを有しています。

一方、NISAは運用益が非課税になるだけで、掛金の所得控除はなく、優先度は相対的に下がります。端的にNISAは運用を後押しする制度なので、投資した運用商品にプラスのリターンが出た場合のみ税制優遇があるのに対して、企業型DCやiDeCoは年金形成を後押しする制度であることから、掛金そのものに税制優遇があるため、運用商品にリターンがあろうとなかろうと、税制優遇を受けることができるのです。

企業型DCやiDeCoの枠組みで元本保全型の定期預金に預けておくだけでも税制優遇が得られるのだから、使わない手はないでしょう。反面、年金形成のための優遇制度である企業型DCやiDeCoは、60歳(企業型DCの場合はプランによる)になるまで引き出せないのに対して、NISAはいつでも枠からの引き出しが自由です。

流動性という観点でNISAが優れているように見えますが、ものは考えようです。簡単に引き出せるような仕組みだと自分の年金など形成できるはずもありません。

企業型DCやiDeCoのように「60歳まで壊すことのできない貯金箱」に入れることで、法的に隔離してくれているから年金形成ができるともいえますし、実際にこれらの2つの制度はあなたがたとえ自己破産したとしても通常は差し押さえられることはないのです。

企業型DCは、勤務先が制度を導入していなければ利用できませんが、現在では中小企業にも導入が広がっており、今後は標準装備になると考えられます。上限は月額5万5000円で、30年間積み立てれば1980万円の無税枠となります。米国では、この仕組みを通じて定年時に1億円を超える資産を築く労働者も珍しくありません。また、企業型DCでは掛金にかかるコストを雇用主が負担する点も、iDeCoとの大きな違いです。

iDeCoは、企業型DCが利用できない人にとって最も有効な制度ですが、留意点もあります。月額掛金上限は会社員で2万3000円(自営業者は6万8000円)ですが、運用管理手数料として毎月最低171円程度のコストが自己負担となります。額は小さく見えても、掛金に対する割合で見ると無視できません。

なお、現在は企業型DC、iDeCoともに掛金の上限引き上げが制度的に検討されており、さらなる年金資産形成支援策として期待されています。

NISAは年最大360万円(成長投資枠+つみたて投資枠)の投資が非課税枠で可能で、合計で1800万円の無税枠が用意されています。掛金の所得控除こそありませんが、配当や売却益にかかる20.315%の金融所得課税が非課税となるのは大きな魅力です。

ただし、これは節税のための制度ではなく、あくまでも自分のBSを構築するための手段ととらえるべきです。「なんとなく得だから」始めるのではなく、「自らのBSを作るために必要だから」活用する――この意識が、長期で豊かさを築く第一歩となるのです。
 

パターンB:企業型DC

制度としてのメリットの大きい企業型DCですが、雇用主ごとに企業型DCプランが決まっており、そのプランに入っている投資信託のラインナップに対する不満の声を耳にすることがあります。

よく聞かれるデメリットとしては、各プランに用意されている投資信託が、そのプランを運営する金融機関の系列色が強いものであったり、手数料の高いものが放置されていたり、説明不足であったり、といったものです。もしこれを解決するのであれば、従業員が不満を人事部に直接ぶつけるしかないでしょう。

とくに企業型DC特有のメリットとしては事業主が用意してくれている「金融教育」を無料で受けることができるということでしょう。実は企業型DCプランの加入者に金融教育を行うことが事業主の努力義務として課されています。学生時代にしっかりとした金融教育を受けずに社会に出るケースが多い日本において、企業型DCが職域というコミュニティにおいて行う金融教育は今後ますます重要性を増すことでしょう。

ちなみに筆者が経営に関わる農林中金バリューインベストメンツ株式会社が代表事業主となって参加している企業型DCの総合型プラン「オーナーズクラス」では特にこの点で差別化を図っています。

 

次ページリターンを“実額”として実感するためには

※本連載は、奥野一成氏の著書、『武器としての投資~AI時代を生き抜く資産とキャリアの築き方~』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集したものです。

武器としての投資

武器としての投資

奥野 一成

KADOKAWA

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