「売れない家」と“孤立”の現実
3年が過ぎた頃、川島さんは精神的にも経済的にも限界を迎えます。
「誰もいない夜がつらくなった。気軽に話せる相手もいないし、病気になったときに不安しかなかった」
再び都市部に戻ろうと考え、ログハウスの売却を決意しますが――ここでも“地方物件”の現実が立ちはだかりました。
「内覧に来る人がいない。価格を下げても、山間部の物件は売れにくいと言われました」
結局、買い手がつかないまま、不動産会社に「資産価値はゼロに近い」と言われた川島さん。その後、家を手放すことなく近隣の町に安価なアパートを借り、いまは月17万円の年金でギリギリの生活を送っています。
2024年度の総務省『家計調査』によれば、高齢単身世帯の1ヵ月あたりの消費支出は平均約15万円(さらに非消費支出が約1.3万円)とされており、年金だけでまかなうのは難しいのが実情です。
また、地方への移住支援制度や空き家バンクなどの取り組みも増えていますが、医療アクセスや公共交通、物価の地域差など、移住後の生活コストの試算までは自己責任となっています。
国土交通省の資料によると、地方住宅の流通は「都市圏に比べて著しく流動性が低い」とされ、築年数や立地によっては“資産価値ゼロ”と査定されることも珍しくありません。
「退職金や貯金があれば大丈夫」と思って始めた田舎暮らしも、準備と情報がなければ破綻のリスクをはらんでいるのです。
「夢を否定する気はありません。でも、夢だけじゃ暮らしていけなかった。それが現実でした」
川島さんは今、近くのスーパーで週に数日レジのアルバイトをして、わずかに足しにしています。「働かずに暮らすはずだった」老後は、自分の“理想”に押しつぶされるようにして終わりを迎えました。
都会の喧騒を離れ、自然の中で自分らしく生きたい――。その夢を叶えるには、思った以上に「お金」と「準備」が必要なのかもしれません。
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