歴史的円安はなぜ起きている?…「いまはドルが高すぎる、いずれ値下がりするだろう」との思考が危険なワケ【経済評論家が解説】

歴史的円安はなぜ起きている?…「いまはドルが高すぎる、いずれ値下がりするだろう」との思考が危険なワケ【経済評論家が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

海外の先進各国を訪れて、あまりの物価高に衝撃――。日本はいま、歴史的な円安となっています。なぜこのような状況に置かれているのでしょうか。そして、今後の展望は? 経済評論家の塚崎公義氏が平易に解説します。

ゴールドオンライン新書最新刊、Amazonにて好評発売中! 

『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【基本編】』
加陽麻里布(著)+ゴールドオンライン (編集)

『富裕層が知っておきたい世界の税制【カリブ海、欧州編】』
矢内一好 (著)+ゴールドオンライン (編集)

『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【実践編】』
加陽麻里布(著)+ゴールドオンライン (編集)

シリーズ既刊本も好評発売中 → 紹介ページはコチラ!

為替レートの基本は「日米物価水準の一致」

為替レートというのは、通貨と通貨の交換比率のことですが、本稿ではドルの値段のことを為替レートと呼びます。その基本は、両国の物価水準が概ね同じになることです。

 

もしも1ドルが1円であったら、日本人が円をドルに換えて米国に買い物に行くでしょうから、銀行にはドル買い注文が殺到してドルが値上がりするでしょう。米国から日本に物を売りに来た人が、円をドルに換えて本国に持ち帰る場合も同様です。反対に、もしも1ドルが1万円であったら、米国人が日本に買い物に来てドルを売るので、ドルは値下がりしていくでしょう。

 

そうした動きは、日本と米国の物価が概ね等しくなるようなドルの値段になるまで続くでしょう。もっとも、まったく同じになる必要はなく、ある程度の幅の中に収まれば動きは止まるはずです。輸送コストなどがかかるからです。

物価上昇率格差を考えると、現在は歴史的な円安

最近外国(とくに先進国)へ行った人の多くは、物価が高いと感じたようです。それは、ドルが「ある程度の幅」の中で高いほうにあるからです。

 

過去と比べてみても、いまのドルは高いといえるでしょう。たとえばバブル期と比べると、ドルの値段は当時といまでそれほど変わりませんが、その後米国はインフレ(物価上昇)が続き、日本はデフレ(物価下落)が続いていることを考えると、日本の輸出は当時よりはるかに容易だ、ということがわかります。

 

「輸出困難度指数」と筆者が読んでいる実質実効為替レート(後述)を見ても、いまの輸出困難度が歴史的な低水準にあることがわかります。

輸出企業の現地生産化投資が続くと円安持続も

輸出が容易ならば、輸出企業が増産して輸出を増やすだろうから、彼らのドル売りが増えてドルが値下がりするだろう(=円高になるだろう)、と考える人も多いでしょうが、そうなるとは限りません。それは、輸出企業の行動パターンが従来と異なるからです。

 

最近の輸出企業は、ドル高円安にもかかわらず、日本からの輸出ではなく消費地での現地生産を重視しているのです。

 

「いまの為替レートが続くとわかっているなら、国内に工場を建てて大量に生産して輸出するだろう」

   ↓

「しかし、工場が完成したときに円高になっていて、輸出ができなければ、せっかく作った工場が無駄になってしまうかもしれない」

   ↓

「そんなリスクを冒すくらいなら、消費地に工場を建てて現地生産したほうがマシだ」

 

というわけです。

 

企業が次々と海外現地生産を始めているため、最近の貿易収支は概ねゼロ(原油価格等により変動)となっています。かつて輸出大国として巨額の貿易黒字を稼いでいたのとは様相が大きく異なっているのです。

 

海外現地生産が増えるということは、輸出が増えないだけではありません。企業が海外に工場を建てるためにはドルが必要なので、彼らがドルを買うことでむしろドルを高くする要因となっている面もあるのです。

 

企業が現在のような行動を続けるとすれば、今後も現状程度のドル相場が続くかもしれません。「いまはドルが高すぎるから、値下がりするだろう」という思い込みは危険でしょう。

 

輸送費だけでなく、輸出企業のリスク回避も考えると、「ある程度の幅」は相当大きいのかもしれませんね。

経常収支は黒字だが、投資収益を除けばトントン

日本の経常収支は大幅な黒字なので、今後はドル売りが増えてドルが安くなるだろう、と考えるのも、危険かもしれません。日本の経常収支が黒字である主因は所得収支(利子や配当の受払)が大幅黒字だからです。

 

貿易黒字であれば、輸出代金を受け取った企業がドルを売るでしょう。従業員に支払う給料は円建てだからです。しかし、外国の株や債券を持っている投資家は、利子や配当を受け取っても円に換えるとは限りません。むしろ、そのまま受け取ったドルで新しい株や債券を買う場合も多いでしょう。したがって、経常収支のなかから利子や配当等の受払を除いた金額で考えたほうがドルの値段を予想する上ではよいともいえるでしょう。

【初心者向け】実質実効為替レートは「輸出困難度指数」

いまのドルが高いのか安いのかを考える材料として、「実質実効為替レート」というものが用いられることがあります。そもそも難しい名前ですし、誤解を招きやすいので、これを筆者は「輸出困難度指数」と呼んでいます。誤解を招くというのは、ドルの値段は数字が大きくなると輸出が容易になりますが、実質実効為替レートは数字が大きくなると輸出が困難になるので、間違いやすいのです。

 

輸出困難度指数の求め方としては、まず過去の一時点を定め、その時の数値を100とします。ドルが高くなれば輸出が容易になるので数字を小さくし、ドルが安くなれば数字を大きくします。米国の物価が上昇すれば輸出が容易になるので数字を小さくします。日本の物価が上昇すると輸出が困難になるので数字を大きくします。それを繰り返すと、「今月の対米輸出困難度指数」が求まります。

 

日本は、米国以外の国とも貿易をしているので、他国との間でも同様に輸出困難度指数を求めます。最後にそれらを「加重平均」して出来上がりです。加重平均というのは、重要な貿易相手国との指数の変化を重視する形で平均を求める手法のことです。

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

筆者への取材、講演、原稿等のご相談は「ゴールドオンライン事務局」までお願いします。「THE GOLD ONLINE」トップページの下にある「お問い合わせ」からご連絡ください。

 

 

塚崎 公義

経済評論家

 

注目のセミナー情報

【海外不動産】12月18日(木)開催
【モンゴル不動産セミナー】
坪単価70万円は東南アジアの半額!!
世界屈指レアアース産出国の都心で600万円台から購入可能な新築マンション

 

【事業投資】12月20日(土)開催
東京・門前仲町、誰もが知る「超大手ホテルグループ」1階に出店!
飲食店の「プチオーナー」になる…初心者も参加可能な、飲食店経営ビジネスの新しいカタチとは?

 

【関連記事】

■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】

 

■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】

 

「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】

 

カインドネスシリーズを展開するハウスリンクホームの「資料請求」詳細はこちらです
川柳コンテストの詳細はコチラです アパート経営オンラインはこちらです。 富裕層のためのセミナー情報、詳細はこちらです 富裕層のための会員組織「カメハメハ倶楽部」の詳細はこちらです 不動産小口化商品の情報サイト「不動産小口化商品ナビ」はこちらです 特設サイト「社長・院長のためのDXナビ」はこちらです オリックス銀行が展開する不動産投資情報サイト「manabu不動産投資」はこちらです 一人でも多くの読者に学びの場を提供する情報サイト「話題の本.com」はこちらです THE GOLD ONLINEへの広告掲載について、詳細はこちらです

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録