(画像はイメージです/PIXTA)

近年、中小企業経営者から事業承継の相談を受ける金融機関の営業担当者が増えてきています。子どもへの承継やM&Aによる売却など方法はいくつかありますが、簡単に進まないケースも少なくありません。その背景には、企業の収益性や経営者の意向、買い手の不在といった複雑な要因が絡んでいます。公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。

事業承継支援の3つの観点

事業承継を成功させるためには、単に株式の評価や資産承継だけに注目するのでは不十分です。中小企業の事業承継は大きく次の3つの観点で整理できます。

◆事業性評価の観点

企業の収益性や財務状況を把握し、事業の存続や成長が可能かを評価します。承継後に事業が破綻してしまっては意味がないため、最優先で確認すべきポイントです。

 

◆経営者の生き方の観点

引退する経営者の気持ちや、後継者の意欲・能力を理解します。引退経営者は不安や寂しさを抱え、後継者は自信や覚悟が不足していることも多いです。事業承継は単なる経営の引き継ぎではなく、「人生の意思決定」の支援でもあります。

 

◆承継手続きの観点

株式や事業用資産の承継、相続税対策、生命保険の活用など、法務・税務の手続きに関わる実務的な問題です。専門家(公認会計士・税理士・弁護士)に依頼すれば解決可能であり、事業承継全体の最後のステップとなります。

問題発見の網羅性──事業承継フレームワークの活用

事業承継の課題は多岐にわたるため、抜け漏れなく整理することが重要です。中小企業診断士が活用する「事業承継フレームワーク」では、承継の方向性を「親族」「従業員」「第三者」の3つに分け、それぞれの方向性で「事業性評価」「経営者の生き方」「承継手続き」の3つの観点から整理します。3×3のマトリックスにより、問題点を網羅的に把握することができます。

 

[図表]事業承継フレームワークのマトリックス

 

このマトリックスを活用するには、まずお客様自身に事業承継の必要性を認識していただくことが欠かせません。そのためには、以下の2つの対話が重要です。

◆事業の現状と課題の理解

経営者から事業の状況を伺い、事業性評価を行います。今後の存続や成長の可能性、改善策を検討していただきます。

 

◆引退・承継の意思決定の支援

経営者に引退を決意していただき、後継者に企業経営者としての覚悟を持ってもらいます。これは個人的な相談に踏み込むことを意味します。

専門家による手続きサポートとの棲み分け

事業性と経営者の生き方の問題をクリアできれば、承継手続きは比較的シンプルです。あとは法律・税務の専門家に依頼することで、株式承継や相続税対応などを円滑に進められます。ただし、第三者に承継するM&Aの場合は、買い手探しが課題となるため、追加の工夫が必要です。

まとめ

中小企業の事業承継は単なる資産の引き継ぎではなく、事業の持続性と経営者・後継者の人生設計まで含めた包括的な課題です。金融機関や顧問税理士は、まず対話を通じて事業性評価と経営者の意思決定を支援し、必要に応じて専門家の手続きサポートを組み合わせることが、成功する事業承継への近道となります。

 

 

岸田 康雄
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)

 

★事業承継の際の各種申請手続きについてはこちらをチェック

相続で事業承継、個人事業を承継する際の青色申告承認申請書や開業届等の手続き方法を解説

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