近年、中小企業経営者から事業承継の相談を受ける金融機関の営業担当者が増えてきています。子どもへの承継やM&Aによる売却など方法はいくつかありますが、簡単に進まないケースも少なくありません。その背景には、企業の収益性や経営者の意向、買い手の不在といった複雑な要因が絡んでいます。公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。
中小企業の事業承継が進まない理由
事業承継が難しい最大の理由は、経営環境の変化に対応できず、事業の収益性が悪化していることです。
たとえば、大手IT企業が支配する時代に、手作業中心の町工場が従来通りの経営を続けることは困難です。事業が赤字に転落し、債務超過に陥れば、M&Aの買い手はもちろん、子どもが承継を嫌がるのも自然な流れだといえます。
事業承継が進まないことの影響は、個別企業の問題にとどまりません。景気悪化や産業の衰退、雇用減少を通じて、国内総生産(GDP)の低下につながる可能性もあります。特に、新型コロナウイルスの影響で景気の先行きが不透明となり、70歳を超えた経営者の働く意欲が急低下したことも、廃業増加の一因となっています。
政府・金融機関による支援策の限界
日本政府は、中小企業の事業承継を支援するために、相続税をゼロとする税制や、資金繰りが悪化した企業への実質無利子・無担保融資、持続化補助金などの制度を用意しています。
しかし、これらはあくまで「延命策」にすぎません。資金を供給しても、企業の収益性を改善することは難しく、数年後には再び資金繰りが悪化し、借入金の返済が困難になるリスクがあります。そのため、早期に問題を把握し、包括的な支援を行うことが求められます。
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公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年度経済産業省中小企業庁「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。中央青山監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント営業部、みずほ証券投資銀行部M&Aアドバイザリーグループ、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部不動産投資グループなどに在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継とM&A実務を遂行した。現在は、相続税申告と相続・事業承継コンサルティング業務を提供している。
WEBサイト https://kinyu-chukai.com/
著者登壇セミナー:https://kamehameha.jp/speakerslist?speakersid=142
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