「ようやく平均に届いたが、これがピークかもしれない」
「月収約44万円、年収で530万円です。ようやく“平均”に近づいたとはいえ、これ以上は上がらないと思います」
そう話すのは、39歳の岸野翔太さん(仮名)。長年勤めてきた会社で昇給があり、ようやく給与所得者の平均年収に並んだという実感をもったものの、喜びよりも不安が大きかったといいます。
※ 国税庁の『民間給与実態統計調査(令和5年)』によれば、日本の正社員男性の平均年収は約530万円。
「うちは斜陽産業なので、会社の将来性には正直期待できません。今期は業績が良くて昇給となりましたが、現場レベルでは『来期は危ない』と皆が感じています。むしろ減給の可能性すらある。年齢的にも転職はラストチャンスかもしれませんが、ここで辞めてしまえば、チームの崩壊に拍車をかけることになるかもしれないという責任もあって、動けないんです」
昇給した直後だからこそ見えてしまった“その先がない現実”。40代を目前に「これがピークか」と自覚してしまったことで、岸野さんの胸には焦りばかりが募っていったといいます。
しかし、生涯収入という観点で見ると話は変わってきます。リクルートワークス研究所などによれば、日本人の平均的な生涯賃金(大卒・男性)はおよそ2億7,000万円。これは就業から定年までの約40年間、平均年収675万円程度をもらっていた計算になります。
「自分のピークが年収530万円で、定年まで同水準か、下がっていく可能性があると考えると、明らかに足りないんです。“平均”には届いたかもしれない。でも、“平均的な人生”からは、どんどん遠ざかっていく感覚があります」
「月44万円でも、手取りは34万円程度です。ずっと家計が自転車操業だったので、ようやく貯金ができるようになったのが救いですね。月5万円、なんとか貯めたいと思ってます」
月5万円の貯蓄を25年間続けられれば、1,500万円にはなります。しかし岸野さんはそれすら難しいと語ります。
「子どももいますし、そのお金は教育費に消える予定です。自分たちの老後資金まではとても回らないですね。しかも、将来的には親の介護も控えていて、そちらの費用も気にしています。マイホームにも憧れはありますが、現実的にローンを組む勇気は出ません」
岸野さん一家は現在も賃貸暮らし。定年後も家賃を払い続けなければならず、年金収入でそれをまかなえるのか不安を抱えています。
