義母が特養に入り「私の介護は終わった」と思った
「自分の人生が戻ってきたと思ったんです」
54歳の佐藤涼子さん(仮名)はそう振り返ります。義母の正子さん(仮名・当時78歳)は、3年前から要介護3の認定を受け、認知症も進行していました。涼子さんと夫は共働きでしたが、正子さんの介護は主に涼子さんが担っていました。
「毎朝5時に起きて、食事の準備、着替え、トイレの誘導…。デイサービスが頼りでしたが、夜間はひとりで抱えていました」
転機が訪れたのは、特養の空きが出たという連絡があったときです。数年の待機を経て、ようやく入所が決まりました。
「ホッとしました。涙が出ました。本当に“介護が終わった”と思ったんです」
正子さんの年金は月13万円。年金の大部分と自己負担額を差し引いた分は、涼子さん夫婦が補填していましたが、それでも精神的な負担に比べれば軽いものでした。
しかし、6ヵ月が経ったある日、ポストに届いた1通の封書が、再び涼子さんの平穏を壊します。
「内容を見た瞬間、血の気が引きました。“入所継続の再審査のご案内”と書いてあって」
書類によれば、義母の要介護度が「要介護1」に変更される可能性があるとのこと。要介護3以上が原則である特養において、要介護1となれば「退所」の対象になる可能性があると明記されていました。
「まさか、半年で追い出されるとは思ってもみませんでした」
特養(特別養護老人ホーム)は、原則として要介護3以上の方が入所対象です。要介護1や2の方は、特例に該当する場合を除き、基本的に入所できません※。入所後も、定期的に介護認定の再審査が行われ、その結果次第で介護度が下がることがあります。
※ 厚生労働省「特別養護老人ホームの入所に関する指針」では、原則「要介護3以上」が対象。要介護1・2の者については「特例入所」(家族の支援が困難など)の場合のみ、各施設の判断で入所可能とされている。
正子さんの場合、入所後の生活で安定したことで「要介護1」に認定された可能性がありました。しかし、介護施設職員による支援がある環境で生活能力が向上した結果をもって「自立している」と判断されるのは、涼子さんにとって納得できないものでした。
「家に戻ってきたら、また生活が崩れて、認知症も悪化するのは明らかです。それなのに、“施設の中では問題がない”という理由で追い出されるのは…」
