「これじゃ、老後破産ですよ」
「最初はね、妻にも『せっかく定年なんだから、少しゆっくりしたら?』と言われました。でも、家計簿を見て青ざめましたよ。年金だけじゃ、全然足りないんです」
佐々木さんは都内の大手企業で営業部長として定年まで勤め上げました。退職金は約3,500万円。老後資金としては決して少なくはありませんが、住宅ローンの残債返済、子どもの教育費の残り支払いなどで1,000万円以上が消えました。
現在、佐々木さんの年金受給額は、厚生年金が約17万円、国民年金(基礎年金)が約4万円で、合計21万円/月。妻は専業主婦で、年金の受給開始は数年先とのこと。
「医療費や食費、水道光熱費、それに固定資産税やマンションの修繕積立金まで。切り詰めても毎月3~5万円の赤字。これじゃ、15年で貯金が尽きてしまう計算なんですよ」
現在、佐々木さんは週5日、午前中はスーパーの品出し、夕方はコンビニのレジを掛け持ちしています。時給はどちらも1,200円程度で、月に約12万円の収入。
「『元部長』が『バイト』ですよ。でも背に腹はかえられない。働けるうちは、働くしかないんです」
一方、家族の反応は複雑です。特に30代の息子からは、こう言われたといいます。
「そんなに働いて、どうするの? 父さん、年金もらってるんだよね?」
「家計簿見せたら、何も言わなくなりましたよ。今の時代、年金だけで悠々自適な生活なんて、ほんの一部の人しかできないってことです」
年金だけでは生活は難しい?
厚生労働省『年金受給者実態調査』によれば、老齢厚生年金の平均月額は約14万6,000円。基礎年金だけの受給者であれば、月5~6万円程度にとどまるため、持ち家があっても生活は厳しいのが実情です。
また、総務省『家計調査(2024年)』によると、65歳以上の夫婦のみの世帯における平均消費支出額は月約25.6万、非消費支出額は月約3万円。つまり、年金月20万~21万円では毎月数万円の赤字になる計算です。
その差額を補うには、貯金の取り崩し、もしくは労働による収入が必要となります。実際に、65歳以上で働く人の割合は年々増加しており、特に都市部では高齢者の労働参加率が高い傾向にあります。
「老後は“悠々自適”じゃなくて“有能自活”の時代です。人手不足の今、高齢者にも働くチャンスがある。それなら、できるうちに動いておくべきですよ」
佐々木さんはそう言って、今日も制服に袖を通し、仕事へ向かいます。名刺に肩書はなくても、日々の暮らしに向き合う姿勢に、かつての誇りは確かに残っているようでした。
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