「この景色のために頑張ってきた」夢の入居初日
「ようやく、ここまで来たって感じでした」
都内のIT企業に勤める佐藤信也さん(仮名・38歳)と妻の陽子さん(仮名・36歳)は、2024年秋、都内・港区に建つ地上47階建てのタワーマンションに引っ越しました。
夫婦あわせての世帯年収は約1,500万円。都内の分譲マンションを転々とし、ついにフルローンで“憧れのタワマン”を手に入れたのです。
「角部屋で、東京湾とスカイツリーが両方見える部屋なんです。夜になるとライトアップされて、毎日が非日常みたいで…」
入居当初は、高層階からの絶景に酔いしれ、ジムやラウンジなど充実した共用施設も満喫していました。しかし、その生活は思わぬところで陰りを見せはじめます。
ある日、管理組合主催の住民説明会に参加した際のこと。修繕積立金の増額や、ゴミ出しマナーの悪化などが議題に挙がるなか、信也さんが驚いたのは“出席者の顔ぶれ”でした。
「半分以上が外国人の方か、不動産会社の代理人だったんです。“持ち主が誰か分からない部屋”もあるって説明されて、正直ちょっと怖くなりました」
後に知ったのは、この物件の全体住戸の約4割が“投資用”として法人や海外富裕層に買われていたという事実。空室率が高く、近隣に「民泊」とみられる出入りもありました。
「“ここに根を張って生きていく場所”と思っていた自分たちと、“資産として回している人たち”のあいだに温度差があると感じました。住人というより“居住者”という言葉がしっくりきましたね」
こうした現象は、この物件に限った話ではありません。
国土交通省や不動産経済研究所の調査でも、タワーマンションの高層階・ブランド立地ほど、実需(居住目的)よりも投資目的での購入割合が高い傾向が指摘されています。
とくに新築タワマンでは、海外資本や法人による“転売前提”の保有も多く、管理組合の合意形成や防災対応に支障が出るケースも報告されています。
さらに、分譲マンションは「区分所有法」に基づき、全戸所有者が共有部分の管理責任を負うため、「管理費未納」「修繕積立金不足」などの影響を居住者が受けるリスクもあります。
