(※写真はイメージです/PIXTA)

肩書き、高収入、そして大きな裁量権。会社での役割が、自らのアイデンティティそのものになっているサラリーマンは少なくありません。しかし、その鎧が「役職定年」を機に突然剥がされたとしたら、一体なにが残るのでしょうか。本記事ではFPオフィスツクル代表の内田英子氏が、Aさん夫婦の事例とともに、人生100年時代を見据えた、新たなキャリア設計の重要性を問いかけます。※本記事で取り上げている事例は、複数の相談をもとにしたものですが、登場人物や設定などはプライバシーの観点から一部脚色を加えて記事化しています。読者の皆さまに役立つ知識や視点をお届けすることを目的としています。

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「2度の定年」でプライドを砕かれた“元エリート部長”のリアル

Aさんは61歳。大手メーカーで長年勤務し、部長職に就いていました。会社の売上高が過去最高を記録した時期の年収はおよそ1,300万円。部下数十人を抱え、管理職として会社の中枢を担っているという自負がありました。

 

ところが出世レースを外れ、55歳になったことで、状況が大きく変わります。「役職定年」を命じられたのです。「部長」という肩書きこそ維持されたものの、現場サポートが主な業務に。これまで当然のように出席していた重要な会議には呼ばれなくなりました。長年会社の中枢を担ってきたAさんを待っていたのは、かつての部下が主役となった会議を、ただ眺めるだけの日々でした。

 

「給料は大きく減らなかったものの、自分だけが取り残された気がした」と、Aさんは当時を振り返ります。

 

さらに60歳の定年を機に、子会社へ転籍。給与がさらに約4割減となり、慣れない現場仕事を任せられる一方で、「本社からの出向者」として冷ややかな視線を浴びるようになったのです。

 

「散々尽くしてきたのに、年をとったらお払い箱か……。なぜ自分が?」

 

長年積み上げてきたキャリアとプライドは大きく傷つけられ、Aさんは心身ともに疲弊していきました。

60代は「折り返し地点」…人生100年時代のキャリアの現実

長寿化が進むいま、60代以降も働き続ける人が増えています。本来なら、長年の経験や知識を活かせる働き方が望ましいところ。しかし実際には、Aさんのように役職を外され、給与が大幅に減り、経験を活かせない、慣れない仕事や環境に耐えざるを得ない、という人も少なくありません。「名刺の肩書き」で自分を定義してきた人ほど、役割喪失のダメージは大きく、経済的不安に加えて精神的な打撃も深刻です。

 

国際的な視点でみると、日本人の平均寿命は長いことで知られていますが、健康寿命も長く、世界トップクラスの水準です。WHOの調査でも、日本の出生時健康寿命は世界第2位、60歳以降の健康寿命は第1位とされています。

 

健康で長く生きられることを前提に考えれば、60歳はむしろ“折り返し地点”です。確かに体力や健康面に不安は増えます。働き続けられるかどうかは、職種や健康状態、雇用制度といった条件に大きく左右されるため、すべての人に当てはまるわけではありません。
しかし、だからといってキャリアを「ここまで」と固定してしまうのはもったいないことでしょう。

 

寿命の延びとともにリタイア後の人生も長くなっています。経済力は、人生の晩年にも住まいや趣味、医療・介護の選択肢を広げてくれるもの。人生100年時代では「長く働けること」が大きな強みとなります。会社での役割を終えたとしても、新たな仕事や地域活動、学び直しなど、人生の後半を彩る選択肢は数多く残されているでしょう。定年前後のキャリアの変化を「人生設計の分岐点」ととらえ、役職定年前の50代から早めに60歳以降の就労準備を始めることを推奨します。

 

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