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娘からの「お願い」に母は言葉を失った
兵庫県に暮らす高橋真理子さん(仮名/72歳)は、夫を早くに亡くし、年金収入は月11万円ほど。持ち家で暮らしており、贅沢さえしなければ一人で暮らすにはなんとかなる金額です。
ある日、長女の佳奈さん(仮名/42歳)が実家を訪ねてきました。2人の子どもを育てながら専業主婦をしており、夫の収入だけで家計をやりくりしています。
「お母さん……もう限界なの」
普段は明るく振る舞う佳奈さんが、その日は目に涙を浮かべて切り出しました。
「毎月2万円でいいから助けてもらえない?」
唐突な頼みに、真理子さんは一瞬言葉を失いました。自分の暮らしも余裕があるわけではなく、医療費や冠婚葬祭の支出があればすぐに赤字に転じるのが現実です。娘の夫の顔を思い浮かべながら、真理子さんは恐る恐る尋ねます。
「佳奈……。もしかして、純一さん(仮名/佳奈さんの夫)が家にお金を入れてくれないとか、そういうこと?」
「ううん、そうじゃないの。純一は一生懸命働いてくれてる。でも、あの人の稼ぎだけだと、どうしても毎月少し赤字になっちゃって……。子どもの教育費がどうしても足りないの」
娘の言葉に、真理子さんは少しだけ安堵しつつも、厳しい現実を伝えなければなりませんでした。
「そう。でもね佳奈、年金暮らしだし、自分の病院代を払ったら私もギリギリなのよ」
しかし佳奈さんはうつむいたまま、「親だから、少しくらい援助してくれるのが当たり前だと思ってた」と呟きました。
親子の会話は平行線をたどり、胸の奥にわだかまりを残しました。
「親の年金」と「子どもの家計」
総務省の家計調査によると、65歳以上の単身高齢者の平均収入は約13万円。そのうち大部分を占めるのが公的年金です。一方で支出は月14万円前後。つまり、多くの高齢者は年金だけでは赤字になり、貯蓄を取り崩して生活しています。「親世代の年金=余裕資金」というのは、もはや幻想に近い現実です。
一方、子ども世代に目を向けると、内閣府の調査では30〜40代の世帯の教育費負担が年々増加し、家計の大きな圧迫要因となっています。特に私立高校や大学進学を選択すると、年間100万円を超える支出は珍しくありません。
「親に少し頼めばなんとかなる」——そう考える子世代の気持ちは理解できます。しかしその背景には、住宅ローン、教育費、物価上昇といった現実が重なっています。
「子どものために自分は我慢すればいい」と考える親も少なくありません。けれども、結果的に親の老後資金が尽きれば、反対に子どもに依存せざるを得なくなる悪循環に陥ります。実際、金融広報中央委員会の調査では「老後の生活が苦しい」と答えた高齢者の約4割が「子どもや親族への援助が負担になった」と回答しています。
