インドネシア・シンガポール・タイ…優遇税制の見直し迫る「OECD最低税率制度」とのせめぎ合い【国際税務の専門家が解説】

インドネシア・シンガポール・タイ…優遇税制の見直し迫る「OECD最低税率制度」とのせめぎ合い【国際税務の専門家が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

OECDが主導する「有害な税競争」抑止の取り組みは、アセアン主要国の優遇税制にも影響を及ぼしています。シンガポールやマレーシア、タイなどは、企業誘致の柱として多様な減免措置を設けてきましたが、FHTP(有害税制フォーラム)の評価を経て、一部は廃止や修正を余儀なくされています。一方で、最低税率制度の適用方法や経過措置の取り扱いは不透明なままであり、各国の政策判断は難しい局面に差しかかっています。8月に『富裕層が知っておきたい世界の税制【カリブ海、欧州編】』を刊行した矢内一好氏が詳しく解説します。

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優遇税制を巡る二つの動き

OECDは、優遇税制のある国とない国とで企業の立地に偏りが生じると分析しています。すなわち、優遇税制を持たない国には、製造業や消費関連企業など移動が難しい企業しか残らず、一方で優遇税制を持つ国には移動可能な企業が集中するという現象です。

 

その結果、優遇税制のない国では、直接税よりも間接税を重視する税制に傾き、税制全体に歪みが生じることになります。OECDはこのような状況を「有害な税競争」と位置づけ、1996年以降、その抑止に向けた活動を展開してきました。

 

さらに、国際的租税回避を防止するために、OECDは2012年からBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトを推進し、2015年に最終報告書を公表しました。

 

このBEPS行動計画の行動5には「有害な税務上の取扱い(有害な税実務)」が盛り込まれ、2015年以降、各国の優遇税制は有害税制フォーラム(Forum on Harmful Tax Practices:以下「FHTP」)により審査され、必要に応じて廃止勧告等が行われています。

アセアン主要国の優遇税制

(1)インドネシア

法人税率:20%

優遇税制:

①「パイオニア産業」は新規資本投資額に応じて、5年間~20年間にわたり法人税を50%または100%免除。

②2018年11月改正で延長可。

③追加で2年間の軽減(50%)が認められる。

④FHTP評価:評価対象外。

 

(2)シンガポール

法人税率:17%

優遇税制:

① パイオニア企業(最長15年間免税)

② 上記に該当しない法人、またはパイオニア企業期間終了後の法人(5%または10%)

③ 地域・国際統括本部(3年間、5%または10%)

④ 知的財産開発インセンティブ(5~10%)

⑤ 経営本部(0~10%)

⑥ 財務センターグループ(10年間8%)

FHTP評価:①②は既得権条項を設けた上で廃止。③~⑥は「有害性なし」。

 

(3)タイ

法人税率:20%

優遇税制:

① 投資奨励法に基づくBOI(投資委員会)認可企業(法人税3~8年免除)

② 投資奨励地域所在の企業への追加優遇(免税後5年間、法人税50%軽減)

③ 国際ビジネスセンター(IBC)(法人税3%/5%/8%)

FHTP評価:③のみ「有害性なし」、①②は廃止勧告。

 

(4)ベトナム

FHTP評価:経済特区等に関する措置は評価対象外。

 

(5)マレーシア

法人税率:24%(ラブアン島は3%)

優遇税制:

① パイオニア企業(5年間70%免税)

② ハイテク関連パイオニア企業(5年間100%免税)

③ 奨励事業の投資支出(5年間、支出の60%控除)

④ ハイテク関連投資支出(5年間、支出の70%控除)

⑤ 経営本部(10年間免税)

FHTP評価:③は評価対象外、⑤は廃止勧告、ラブアン関連は「有害性なし」。

今後の見通し

OECDが最低税率制度(グローバルミニマム課税)の詳細を定めても、優遇税制は各国の国内法を根拠としています。したがって、これらを廃止するには各国での法改正が必要となります。問題は、その改正の時期や内容を各国がどのように歩調を合わせるかです。

 

OECDが各国法令と既存の有効期限を尊重するのか、世界一律で一定の経過措置を認めるのか、あるいは別の方式を採用するのかは、現時点では不透明です。

 

矢内一好

国際課税研究所首席研究員

 

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