(※写真はイメージです/PIXTA)

1997年の香港返還は、19世紀以来のアヘン戦争と不平等条約に端を発するイギリスと中国の複雑な歴史の帰結でした。一方で、日本を含む各国は、中国と台湾双方との経済関係を維持するため、租税条約という形で微妙な外交バランスを取ってきました。8月に『富裕層が知っておきたい世界の税制【カリブ海、欧州編】』を刊行した矢内一好氏が香港返還交渉の経緯と、イギリスや日本が中国・台湾と結んだ租税条約における政治と経済の駆け引きについて解説します。

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イギリスの香港返還

中国への返還前の香港は、次の3つの地域から構成されていました。

 

① 1842年、第1次アヘン戦争の講和条約である南京条約により、香港島が清朝からイギリスに割譲され、イギリスの海外領土となった。


② 1860年の第2次アヘン戦争の講和条約である北京条約により、九龍半島の南端がイギリスに割譲された。


③ 1898年、新界が99年間の租借地となった。

 

その後、③の租借期限の満了が迫ったため、1982年にイギリスのサッチャー首相と中国の鄧小平中央顧問委員会主任の間で返還交渉が開始されました。

 

イギリスは、スペイン南端のジブラルタルについてはスペインからの度重なる返還要求を拒否してきた経緯があります。しかし、香港交渉では鄧小平の強硬姿勢に対し、サッチャー首相が譲歩する形となり、香港島と九龍半島南端を含め、全域を中国に返還することとなりました。

対中国・対台湾との租税条約

日本は1972年の日中国交正常化に伴い、台湾との国交を断絶しました。そのため長らく日本と台湾の間には租税条約が存在しませんでした。2015年、日台双方の民間団体間で二重課税排除の取決めが行われ、これを受けて双方が国内法を改正し、実質的な租税条約が発効しました。

 

現在、中国と台湾の双方と租税条約を結んでいる国は29ヵ国あります。主要国では、アメリカやスペインは中国とは租税条約を結んでいますが、台湾とは結んでいません。台湾が締結している租税条約は34ヵ国にのぼります。

租税条約における台湾の表記

イギリスは2002年に台湾と、2011年に中国とそれぞれ租税条約を締結しています。台湾との租税条約は、イギリスにある台北代表事務所と台北にあるイギリスの貿易文化事務所との間で締結されました。

 

租税条約は通常、国と国の間で結ばれるため、条約相手を「国」として認識することになります。ただし例外として、日本と香港の租税条約があります。

 

興味深いのは、中国がイギリスと台湾との租税条約の存在を承知しつつ、2011年に中国との租税条約を結んでいる点です。政治と経済を分けて扱った結果と考えられますが、それがイギリス側の判断か中国側の判断かは微妙なところです。

 

なお、イギリス・台湾租税条約の名称には「Taiwan」と明記されています。しかし第3条における「地理的範囲」では、「台北所在の財務省租税部門により租税法が管理されている地域」と定義されています。つまり、具体的な地理的名称ではなく、「台湾の租税法が適用される地域」として位置づけられているのです。

 

矢内一好

国際課税研究所首席研究員

 

2028年から株式・投資信託並みの「20%分離課税」へ。
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