(※写真はイメージです/PIXTA)

祇園に本店を構える「天ぷら圓堂」のオーナーとして順風満帆な日々を送っていた52歳のある日、ふとした縁からワインバーの経営を託されることに。それは、かつて自らが祇園から消してしまった、母の愛したお茶屋「近江榮」の名を復活させる、またとない機会でもありました。しかし、この決断が、まさか息子をライバルに、自らの記憶力の限界と戦う“過酷な挑戦”の始まりになるとは……。遠藤弘一氏の著書『まっすぐ精進 京都祇園「天ぷら圓堂」繁盛記』(幻冬舎メディアコンサルティング)より、ソムリエ試験の裏話を紹介します。

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親子でソムリエ資格に挑戦

ワインバーを開業するならソムリエが必要です。

 

「天ぷら圓堂」の従業員から誰かいないかと頭を巡らせましたが、ぴったりの人間が思い当たりません。悩んだ末、私と息子でまずはソムリエになるための勉強をしようと、ソムリエになるための塾に入りました。その塾は半年勉強したら日本ソムリエ協会の資格試験を受けることができます。

 

私は、歴史が好きですし、暗記力にもある程度自信があったので、なんとかなるだろうと思っていました。しかし、甘かった。覚えることができても、すぐに忘れてしまうのです。52歳という自分の年齢を考えていませんでした。日常会話ですら「ほら、あの、こんな感じの名前が出てこないのだけど、こういう人いたじゃないですか」と、頭では相手に伝えたい人の顔が浮かんでいるのに、名前が思い出せないことが起きる年齢だったのです。

 

ソムリエの勉強はワインの歴史や産地や、ワインの名前を覚えなければなりません。そのほとんどが、英語とフランス語を訳したカタカナ文字です。覚えられるわけがないのです。

 

でも始めたことは最後までやり遂げたいし、やるなら試験に受かりたいと思います。息子だけ受かって自分が落ちるのは絶対に嫌だという気持ちもありました。息子は息子で、父親には負けたくないと思っていたようです。親子でライバル意識を燃やしていました。

 

私は受験生のようにトイレや寝室の天井、部屋の壁など、家のあちこちに覚えなければならないことを書いたものを貼って覚えました。

 

当時、試験は筆記とテイスティングの2つでした。筆記試験は110問の問いに選択形式で答えるというもので、15問間違えたら落ちます。どうなるかと思いましたが、さほど間違わずに、親子で無事に筆記試験を通過しました。

 

次はテイスティングテストです。これが非常にわかりにくいのです。テイスティングテストは、高級なワインではなくて、テーブルワインの香りを嗅いだり、ほんの一口、口に含んだりして、そのワインの製造年、産地、どういうブドウで構成されているかを当てるものです。

 

それも、カベルネソービニヨンがほんの少し、微かに入っているようなビンテージワインが出題されたりするわけです。誰もが聞いたことあるような年代のビンテージワインではありません。ブドウがどうしようもなく不作だった年のワインが出題されるのです。それを嗅ぎ分けなければなりません。

 

私がテイスティングテストを受けた時、芸妓さんが何人か私と同じように試験を受けていましたが、みんな落ちていました。なぜなら、彼女たちは高級なワインを飲み慣れているため、テーブルワインの味を知らなかったのです。

 

私は幸運にも、街の居酒屋でワインを飲んでいましたし、高級なワインも飲んでいたので、どっちの味もわかっていました。結果、私も息子も無事にテストに合格して、ソムリエの資格を取得できたのです。それが嬉しかったし、暗記力にも少し自信がつきました。

 

そしてこれならウチの従業員が受けても大丈夫じゃないかと思い、合格したら資格取得にかかった費用を会社が負担する制度を福利厚生に追加しました。もともとソムリエの資格を持っている従業員がいたので、その人にはこのワインバーで働いてもらっています。思わぬ縁で始まったこのワインバーは、私にソムリエの資格まで取らせてくれ、非常に面白い経験をさせてくれたお店となりました。

 

 

遠藤 弘一

株式会社圓堂

代表取締役

 

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※本連載は、遠藤弘一氏の著書『まっすぐ精進 京都祇園「天ぷら圓堂」繁盛記』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・編集したものです。

まっすぐ精進 京都祇園「天ぷら圓堂」繁盛記

まっすぐ精進 京都祇園「天ぷら圓堂」繁盛記

遠藤 弘一

幻冬舎メディアコンサルティング

石畳と格子戸がつづく祇園。夕暮れの路地を舞妓がすり抜け、座敷の明かりがにじむ――お茶屋・置屋・仕出しが役割を分かち合う商いが息づく花街。この祇園の地で、明治十八年創業のお茶屋「近江榮」を受け継いだ著者は、1991年…

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