外国の遺族年金に関する税法上の規定と取扱い
外国の遺族年金もそれが死亡した者の勤務に基づいて支給される遺族年金であれば所得税の対象とならないことが明記されています(所得税法9条3項ロ、所得税法35条3項3号、所得税法施行令82条の2第2項1号、同令72条3項9号)。
一方、相続税については、非課税となる根拠規定がないため、「契約に基づかない定期金に関する権利」として、みなし相続財産として相続税の対象となるというのが文理上の解釈といえます。
年金は、定期的に給付されるものです。そこで相続税の課税対象となった場合の評価方法も問題となりますが、たとえば米国の遺族年金を例にとると、米国の遺族年金は解約や一時金の給付は通常ないことから、年金受給者の余命年数に応じて年間平均受給額に複利年金現価率を乗じた金額と通常考えられています(相続税法24条1項)。
つまり、複利年金現価率等は専門的なのですが、文理通り解釈すると、遺族は、年金として受給していないにもかかわらず、受給年数の余命年数に応じた年金分を(もちろん調整はされますが)相続したものとして、一括課税されるということです。
外国の遺族年金に相続税を課税することの問題点
たとえば40代後半で同年齢の妻・子2名を遺して亡くなられた夫がいるとしましょう。夫が米国の公的年金に加入しており、妻が遺族年金受給権を取得した場合、平均余命を80歳としても、30年以上の余命分の将来年金相当額(調整済み)に対応した相続税を夫の死亡から10か月以内に用意する必要があるということです。
米国の遺族年金の金額は一般的に日本の遺族年金より多いとされています。したがって、みなし相続財産とされる総額が数億となる可能性も少なくなく、実際に年金を取得していないにもかかわらず数千万円の相続税を準備しなければならなくなるということです。
遺族年金はあくまでも定期的に支払われるものですが、約30年分の年金の十分な担税力は遺族にあろうはずがありません。しかも年金は終身定期金ですから、平均余命分まで年金を受領できる保障はないということです。
日本で公的年金を非課税とした趣旨は、遺族年金が遺族の生活を保障することにあります。公的年金は、勤務を機に加入が義務付けられているもので、選択の余地はありません。しかも日本国政府は、社会保障協定を締結し、外国の公的保険の利用を促進する制度作りも行っています。以上を考慮すると、外国の遺族年金についても、日本の遺族年金同様相続税を非課税としないのは公平性の観点から問題だと考えられます。
新聞報道では、商社勤務で米国に12年間の駐在歴があり米国の社会保障局の公的年金に加入していた夫を亡くした配偶者が米国の遺族年金の受給権を取得したものの、日本の遺族年金同様に非課税であるものと考えられていたところ、突如税務署から700万円の相続税課税処分を受け、現在課税処分取消しを求め係争中であること、さらに同様の訴訟が他にも2件係争中であることが掲載されていました(2025年4月24日日本経済新聞朝刊)。
ただ、裁判で表面化している数は氷山の一角にすぎません。グローバル化の現在、このようなケースは加速的に増えていくように考えられます。
外国の公的年金に加入したことによる遺族年金への相続税課税を懸念から、国際結婚をした場合の遺族が外国人の夫の死亡後、日本への帰国を躊躇するといった事案も生じかねないように考えられます。そこで所得税と同様に明確な非課税規定を設ける等といった立法的な解決が急務な事案だと考えられます。
酒井 ひとみ
シティユーワ法律事務所
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