普段の食卓で“消える料理”
思い返せば、心当たりはありました。夕食を作り置きして翌日の弁当に入れようと思っていたコロッケが、気づけば消えている。とんかつを3枚揚げて「1枚は明日のランチに」と冷蔵庫に入れておいたはずなのに、翌朝にはなくなっている。
「ねえ、昨日のコロッケ知らない?」と尋ねても、夫は「え? あったっけ?」「知らないな」ととぼけるばかり。
芽衣さんは「食べたいなら食べたいって言えばいいのに」と思ったことを思い出しました。
そういえばこんなこともありました。
去年の年末に、夫婦で温泉旅行に出かけたときのことです。宿泊先の朝食ビュッフェで、智也さんは山盛りの皿を次々とテーブルに運び、席につくや否や一気に平らげていきました。
焼き魚や卵料理はもちろん、人気のクロワッサンも大量に確保。ほかの宿泊客が取りに行ったときにはすでに空っぽで、スタッフが補充するまで列ができてしまうほどでした。
周囲の冷たい視線を感じながらも、智也さんは気にする様子もなく食べ続けます。そのときのことを思い出すと芽衣さんは顔から火が出るほど恥ずかしいのですが、それ以外は智也さんは芽衣さんにとっていい夫だったので、食い尽くし系の一面を芽衣さんは見て見ぬフリをしていたのでした。
友人とのバーベキューの一件以来、それまで見て見ぬフリをしていたツケが一気に回ってきたという芽衣さん。夫の一挙一動にイラついて仕方がなくなったのです。食事の際にも「これは私の分だから食べないでね」と夫に伝えるも「そんな堅いこと言わなくても」と取り合わない夫。そんな夫と暮らしているうちに、食事の際のみならず他の生活面でも夫にイラつくことが多くなり、次第に夫婦仲は険悪になっていきました。
月に14万円の食費
総務省『家計調査報告(2025年7月分)』によると、2人以上世帯の食料費は外食込みで9万3,632円。芽衣さん夫婦の世帯年収は約1,200万円。夫婦2人なら余裕ですが、食費は外食が少ないのにもかかわらず、月に14万円はかかっています。
芽衣さんは次第に、夫の“食い尽くし”が家計や生活に与える影響の大きさを実感するようになりました。夕食の度に減っていく作り置きの料理、ビュッフェでの恥ずかしい一幕、そして月14万円にも達する食費。かつては「まあ、男の人だから仕方ない」とニコニコしていた自分を殴りたくなりました。
「私の話を聞こうともせず、気持ちを想像しようともしない……。食べ方は単なるきっかけにすぎない」と芽衣さんは言います。友人からの指摘がきっかけで、ようやく自覚したのです。
最近では、夫との食事をできるだけ分ける工夫をしたり、外食や友人とのランチで距離を置いたりしています。それでも、家にいるとどうしても目の前で“食い尽くされる”状況が繰り返され、精神的な疲労は増す一方です。
芽衣さんはふと、「このままでは子どもができたとき、どうなるんだろう」と考え、将来への不安を強く感じるようになりました。そして、結婚生活8年目にして、離婚という選択肢を現実的に考え始めたのです。
今も夫との関係を整理しつつ、芽衣さんは少しずつ自分の生活を取り戻す準備をしています。バーベキューの出来事をきっかけに見えた“現実”。それは、単なる大食いではなく、生活全体を揺るがす問題の兆しだったのです。
[参考資料]
総務省「家計調査報告」
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