アポなしで訪ねた実家で見た、父の暮らしぶり
「お父さん、元気にしてる?」
40代会社員の田村由紀子さん(仮名)は、用事のついでに、都内郊外に住む父・誠さん(仮名/76歳)の家をアポなしで訪ねました。母が他界してから6年、誠さんは築50年近い実家でひとり暮らしをしています。
玄関のドアを開けた瞬間、由紀子さんは息をのみました。
「足の踏み場がない」――文字通り、廊下から台所までが、衣類や段ボール、空き缶、古い新聞などで埋まっていたのです。
「まさか、そこまで荒れているなんて思ってもみませんでした。父は電話では“元気だ”と明るく話していたのに…」
足元には埃が積もり、冷蔵庫には賞味期限の切れた食材も。由紀子さんは、すぐに片づけを始めようとしましたが、誠さんは「触らないでくれ」と拒みました。
誠さんは、厚生年金と企業年金をあわせた月約20万円の年金で生活しています。家賃はかかっていないものの、各種税金や水道光熱費、医療費、食費でほとんどが消えてしまうといいます。
「年金で生活はできている。無駄遣いなんてしていないよ。たまに惣菜買って、あとはレトルトとカップ麺だ」
誠さんはそう話すものの、掃除やゴミ出しができていないのは、体力的な問題に加えて、気力の衰えもあるように見えました。誠さんは「誰とも話さない日が頻繁にある」とのこと。
厚生労働省『高齢社会白書』(令和7年)によると、65歳以上の高齢男性の約15%が単身で暮らしています。さらに、同省『家計調査年報(高齢単身無職世帯)』(令和6年)では、平均的な月間支出は約15万円、実収入は約13.4万円とされており、多くが「赤字家計」です。
特に持ち家であっても、老朽化した住宅の維持費や修繕費、健康状態による通院コスト、近隣との関係性など、外からは見えにくい課題が山積しています。
一方で、生活保護や地域包括支援センターなどの支援制度もありますが、誠さんのように「まだ大丈夫」と本人が感じている限り、支援に繋がらないケースも少なくありません。
