父親がしておけばよかった備え
俊哉さんのいとこは障害を持っており、意思の疎通がはかれず、病院で寝たきりの重症です。叔父は生前から「自宅は売却して、息子の入院費用に充ててほしい」と望んでいました。しかし当の一人息子は自分では手続きができないため、叔父が手続きのための次のような事前準備をしておくべきでした。
1.遺言書の作成
・自宅や預金の処分方針を明確に記す
→ 「自宅は売却して介護費用に充てる」など具体的に書いておけば、後見人や裁判所の判断がスムーズになった。
・公正証書遺言にしておけば法的効力が強く、相続人や後見人の負担を減らせた。
2.成年後見制度の利用準備(任意後見契約)
・自分が元気なうちに「将来、息子の後見人は誰に頼むか」を任意後見契約で決めておけた。
・親族や信頼できる専門職を指定しておけば、裁判所任せにならずに済む。
3.信託の活用(民事信託・福祉型信託)
・自宅や預金を「信託財産」として、信頼できる人に管理を託す方法があった。
・信託を使えば、売却や運用もスムーズになり、息子の生活費を長期的に確保できた。
4.後見人候補との事前相談
・病院の関係者やケアマネージャーではなく、家族が信頼できる人を候補にしておけば安心。
・弁護士監督人の負担や制約を避けられる可能性もあった。
5.生活資金の確保方法を決めておく
預金の取り崩しだけでなく、
・不動産売却の手順
・施設費用の目安
・長期的な資金計画
を示しておけば、後見人や裁判所が判断しやすかった。
6.相続後の空き家対策
・生前のうちに自宅を売却、あるいは賃貸化して資金に換えておけば、空き家問題を残さずに済んだ。
・家財整理や管理方法も指定しておけば、あとの手間を大幅に軽減できた。
叔父が元気なうちにしておくべきだったことは、
・遺言(意思の明確化)
・任意後見契約(後見人の指定)
・信託(生活資金の確保と管理)
・空き家対策(不動産処分の方針)
この4点です。
そうしていれば、父親亡き後の成年後見手続きが長引いたり、弁護士監督人の制約で不動産売却が進まないといった問題は回避でき、寝たきりの一人息子の生活をより安定的に守ることができたはずです。
相続実務士より
相続や後見の問題は、「そのときがきてから考えればいい」と思いがちです。しかし、実際には、一番困るのは“本人の生活が続いていくケース”です。今回のように、善意で作られた制度がかえって家族を縛ってしまうこともあります。だからこそ、元気なうちに 「自分の思いを形にする」ことが何より大切です。
遺言、任意後見契約、信託。これらは決して特別な人だけのものではありません。「わが子のために」——そう考える方にこそ、早めに備えていただきたいのです。
曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp)認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
