遺言無効の紛争に備える
遺言が存在しても、その内容に納得できない相続人から遺言無効確認訴訟を提起される可能性があります。予防策としては、遺言作成時の形式的な不備をなくし、遺言能力を証明できる証拠を整え、解釈に疑義が生じない明確な内容で作成することが必要です。
遺言の方式としては、公正証書遺言、秘密証書遺言、自筆証書遺言がありますが、紛争予防の観点では、公証人が証人2名の立会いのもと、遺言者の口述を公正証書化する公正証書遺言が最も望ましいといえます。
さらに、遺言作成前後に長谷川式認知スケールで遺言能力を測定したり、主治医に診断書を作成させたり、介護記録を保管することで、遺言作成時に遺言能力があったことを証拠化することも有効です。遺言作成時の様子をビデオ撮影することも、証拠として役立ちます。
認知症の兆候があっても、直ちに遺言能力がないとは限りません。遺言能力の有無は遺言の内容とも関係します。専門家が関与すると内容が技術的になりやすいですが、目的の優先度に応じて内容を調整することも必要です。富裕層の場合、遺言の内容は複雑になりがちなので、判断能力に問題のないうちに早めに作成を開始することが望まれます。
ファミリービジネスを営む富裕層では、遺産の多くが自社株など特殊な資産で構成されることがあります。その場合、遺言だけで足りるのかを検討し、株式管理処分信託や生前贈与を組み合わせるプランニングが必要になる場合もあります。
遺留分の紛争に備える
被相続人の財産は原則自由に処分できますが、一定の法定相続人(配偶者、子、直系尊属)には、一定割合の遺産処分に制限があり、これが遺留分です。遺留分を侵害された相続人は、侵害額を受遺者や受贈者に請求できます。
富裕層ファミリーのファミリービジネスでは、自社株を後継者に承継させる場合が多く、遺留分侵害額請求に発展するリスクがあります。自社株での対応が難しい場合、第三者への売却で資金を調達する必要が生じ、経営の安定性を損なう可能性があります。このため、信託契約の活用や生命保険による資金確保など、事前のエステートプランニングが不可欠です。
