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44年前に会社を揺るがした突然の裏切り
その事件はなんの前触れもなく、ある日発生しました。
1981年9月9日、水曜日。天候までははっきり覚えていませんが、雨は降っていなかったように思います。その日も私は父が経営するキングインベスト(現・キャステム)の作業現場に向かうためにいつもどおり午前7時40分頃に作業服を着て自宅を出ました。自宅から会社までは自転車で5分ほどで到着します。私たちの会社、キャステムは、当時は従業員わずか27人の小さな鋳物工場にすぎませんでした。
その日、私はいつものように工場脇のスペースに自転車を止めると、当時私が担当していたセラミックコーティングの作業場に向かいました。この作業場には合計4人の作業員が配置されていました。私ともう1人、そして鋳造現場とかけ持ちの作業員が2人です。60歳を優に超えている男性社員といつものように「おはようございます」の挨拶を交わし、その日の作業の準備を始めました。
「何かがおかしい……」と異変に気づいたのは8時15分過ぎでした。それまで、遅刻したことのない作業場のY君がいっこうに姿を現さなかったからです。それに、工場内が妙に静かなことにも違和感を覚えました。普段なら溶解炉や焼成炉・切断・鋳型落としの音や旋盤で金属を削る甲高い音など、何かしら作業をする音が聞こえてきてよいはずなのに、工場内は異様にひっそりと静まりかえっていました。
最初に思ったのは「ひょっとして、今日は臨時休業日だったかもしれない」ということでした。それを忘れて、自分と男性社員の2人だけが間違えて出社してしまったのかもしれません。
本社工場の建築面積は約1000m2で、規模としては中くらいの工場です。また、メイン事業であるロストワックス精密鋳造の製造工程は大きく分けて8工程あり、それぞれの作業場は壁や扉で仕切られているため、工場内をすべて見渡せるようにはできていません。実際、私が担当しているセラミックコーティングの作業場からはほかの作業場が見えない構造になっていました。
不安にかられた私は、隣の作業場である鋳型焼成炉のある現場へ行ってみました。すると、そこにはわずか2人の社員しか出社していません。何か良からぬことが起きていると直感で分かりました。
「工場長がまだ来ていないんだけど……」
「M主任もどこにもいないよ。今日は休みなのかな」
「いや、休むなんて話は聞いてないし」
「今まで無断欠勤したことなんてなかったよね」
「あ、そういえば製造課長もいない!」
「技術部長も今日は一度も見てないよね」
どうやら、出社していないのは鋳造作業場のM主任だけでなく、各作業場のリーダークラスが軒並み来ていないようです。
