ゴールドオンライン新書最新刊、Amazonにて好評発売中!
『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【基本編】』
加陽麻里布(著)+ゴールドオンライン (編集)
『富裕層が知っておきたい世界の税制【カリブ海、欧州編】』
矢内一好 (著)+ゴールドオンライン (編集)
『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【実践編】』
加陽麻里布(著)+ゴールドオンライン (編集)
シリーズ既刊本も好評発売中 → 紹介ページはコチラ!
若手社員3人で三頭体制を構築
父親である社長の命を受け、私たちはただちに社内で三頭体制の構築に取りかかりました。といっても、私と塩田さん、北山さんの3人で少し話し合っただけでした。ちなみに、この時点で会社の実質的な経営権は息子である私が引き継ぐことになりました。
塩田さんは当時入社4年目で、社長の下でずっと金型を作っていました。手先が器用で、理論好きでもあり、工業技術には一家言を持っていたので、「オレは技術部長がいい」という自己申告をそのまま受け入れました。北山さんは入社3年目でずっと鋳造担当でした。物静かで冷静沈着な人柄だったので、品質管理部長兼鋳造課長をお願いしました。私は社長の息子ながらそれまでずっと平社員でしたが、このタイミングで製造部長を名乗り出ました。また、女性の声も採り入れたいので、女性社員の間で代表を1人決めてもらいました。こうして会社の運営は当面の間、私たち3人+女性代表1人の合議制で進めていくことにしたのです。この時点で、幹部社員たちの事件が起きて3日が経っていました。
若手3人がそれぞれ役職を与えられたことで、各自の役割分担も明確になりました。技術部長である塩田さんは、失われた金型を新たに作り直すべく、社長と二人三脚で昼夜を分かたず取り組むことになりました。品質管理部長兼鋳造課長の北山さんは、メーターの失われた生産機械を稼働させるために、各機械メーカーにメンテナンスを依頼することになりました。そして私は製造部長として、それまで担当していたセラミックコーティング現場を安定操業させることが求められました。
ここで再び浮上してきたのが、スラリーに添加する界面活性剤の問題です。ワックスの表面に水性スラリー(液体)を塗ってもはじかないようにするには、どんな界面活性剤を混ぜればいいのか。前技術部長に聞いても教えてくれなかったので、なんとか別の方法で成分を探らなければなりません。各種試料を取り寄せて実験すれば自力でスラリーのレシピを解明することは可能と思いましたが、そこまで時間をかけてはいられません。
時間を節約するためには、その方面の専門知識のある人に教えを乞うしかない。そう腹をくくった私は恥を忍んで、いまやライバル企業となってしまったKパーツ社のキーマンに会いに行くことにしました。
応接間に案内されると、なぜか小さなお嬢さんも同席していて、興味津々の様子で私たちを見ています。どことなく和やかな雰囲気の中、界面活性剤について教えてほしいとお願いしました。すると、私たちの会社から技術を持ち出したという後ろめたさもおそらくあったのだと思います。工場責任者は「しょうがないな、じゃあこれから言うことをよく聞け! 一回しか言わないぞ!」と、界面活性剤のレシピを含め、セラミックコーティングのノウハウの一部を教えてくれました。
