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浮かび上がった裏切りの全貌
事態がここまで明らかになった時点で、今回の「幹部連無断欠勤事件」の大まかな構図が私たちに見えてきました。これは技術部長をはじめとする主要メンバーが事前に計画して行った反逆行為であり、悪質な嫌がらせでした。そして彼らが金型や機械のメーターを盗んでいったとしたら明らかに犯罪です。金型のほうは、これがあればこれまでの得意先から自分たちが仕事を受注できる可能性も出てくるので、そのために盗んでいったと考えられます。一方、引き抜いたメーターやダイヤルはそれだけではまったく用をなさないので、おそらくどこかに打ち捨てられたのでしょう。
技術部長たちが金型を持ち去った行為は窃盗罪か業務上横領罪に問われるでしょうし、金型を盗んだことで残った従業員たちの仕事を妨害したという意味では、威力業務妨害罪や偽計業務妨害罪に該当するかもしれません。今ならただちに警察に通報していたはずです。ところが、44年前の日本は今ほど遵法精神が社会に浸透しておらず(コンプライアンスというビジネス用語もありませんでした)、何事にもゆるゆるの時代だったので、警察に通報しようとは誰も言い出しませんでした。
ともあれ、金型がなければ得意先から受注した鋳造製品を作ることができません。また安全面のことを考慮すれば、圧力や温度の調節レバーのない炉や機械は危険なので動かすことができません。事ここに至って、工場は完全に機能不全の状態に追い込まれてしまいました。
幹部たちはどこへ消えたのか
「幹部連無断欠勤事件」の真相が明らかになったのはその日の昼過ぎでした。
幹部たちが欠勤して困ったことは、現場で指示を出す責任者がいなくなったことに加えて製造工程で必要になる各種材料や溶液の配合(レシピ)など、本来なら会社全体で共有すべき情報やノウハウを技術部長一人がすべて秘匿していたため、金型や工作機械を使わなくてもできる作業まで手をつけられなくなったことです。技術部長に連絡が付けば質問することもできますが、その技術部長本人は朝から完全に消息不明。家人の話では、通常どおり朝7時に家を出たとのことですが、その後の足取りは皆目つかめていませんでした。
