悔しい…父の介護をしてきたのは私なのに。いつの間にか〈遺産5億円〉の大半が甥2人に。70代女性の取り分は「自宅土地のみ」だった衝撃の理由【相続の専門家が解説】

悔しい…父の介護をしてきたのは私なのに。いつの間にか〈遺産5億円〉の大半が甥2人に。70代女性の取り分は「自宅土地のみ」だった衝撃の理由【相続の専門家が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

介護を長年担ったにもかかわらず、相続ではほとんど財産を受け取れず、逆に多額の税金を自分で支払わなければならない──そんな理不尽なケースが現実に存在します。今回取り上げるのは、長女の死後、父親の介護を続けてきた次女・由美子さん(仮名)の事例です。遺言書の内容により、由美子さんが相続できるのは自宅の土地のみで、現金や賃貸収入などはすべて甥2人に渡ることになりました。法定相続分と比べても大幅に少ない財産しか受け取れず、しかも相続税の納税は自己資金で行わなければならない状況です。こうしたトラブルを未然に防ぐにはどうすればよいのか──相続実務士・曽根惠子氏(株式会社夢相続 代表取締役)が詳しく解説します。

法定相続分ならこうだった

もし法律どおりの相続(法定相続分)で分けていれば、こうなります。

  • 由美子さん(次女):1/2 → 約2億5,000万円(本来)
  • 甥(長女の長男):1/4 →  約1億2,500万円
  • 甥(長女の二男):1/4 →  約1億2,500万円

※本事例の設定上、実際の税額計算は4億円ベース(借入控除後)で行います。

 

相続税の試算(参考)

では、与えられた条件で順番に計算していきます。
今回の試算は財産総額を「正味5億円」として行います。

 

  1. 課税対象額

基礎控除は

3,000万円 + (600万円 × 法定相続人3人) = 4,800万円

課税価格合計は

5億円 − 4,800万円 = 4億5,200万円

 

  1. 法定相続分ごとの課税価格
  • 由美子さん(1/2
  • 4億5,200万円 × 1/2 = 2億2,600万円
  • 甥(長男)(1/4
  • 4億5,200万円 × 1/4 = 1億1,300万円
  • 甥(二男)(1/4
  • 4億5,200万円 × 1/4 = 1億1,300万円

     
  1. 各人の相続税(速算表で計算)

2025年現在の相続税速算表(抜粋):

  • ~1,000万円:10%(控除0)
  • ~3,000万円:15%(控除50万円)
  • ~5,000万円:20%(控除200万円)
  • ~1億円:30%(控除700万円)
  • ~2億円:40%(控除1,700万円)

     
  • 2億円超~3億円:45%(控除2,700万円)
  • 3億円超~6億円:50%(控除4,200万円)
  • 6億円超:55%(控除7,200万円)

     
  • 由美子さん(課税価格 22,600万円)
    該当区分:2億円超~3億円(税率45%、控除2,700万円)
  • 2億2,600万円 × 45% = 1億170万円
  • 1億170万円 − 2,700万円 = 7,470万円

     
  • 甥(長男)(課税価格 11,300万円)
    該当区分:1億円超~2億円(税率40%、控除1,700万円)
  • 1億1,300万円 × 40% = 4,520万円
  • 4,520万円 − 1,700万円 = 2,820万円
     
  • 甥(二男)(同じく 11,300万円)
    同計算で 2,820万円
  1. 相続税総額(法定相続分)

7,470万円(由美子さん) + 2,820万円 + 2,820万円 = 1億3,110万円

 

  1. 実際に由美子さんが5%しか相続しない場合の税額

財産総額の5%は

5億円 × 0.05 = 2,500万円(取得額)

相続税は、総額1億3,110万円を相続割合で按分します。

1億3,110万円 × 0.05 = 655万5,000円

 

計算結果まとめ

  • 法定相続分での総相続税額13,110万円

由美子さんが5%取得時の相続税656万円

 

自分のお金で納税する理不尽

遺言書の内容どおりに相続すれば、由美子さんの自宅の土地は自分の名義にできます。しかし、それは決して喜べる話ではありません。なぜなら、その土地には評価額に応じた相続税が課され、計算すると656万円

 

しかし、由美子さんは現金や預貯金を一切相続しないのです。つまり、税金を払うための資金は1円も受け取れません。相続税の納付期限は亡くなってから10か月以内。猶予も待ってはくれません。

 

結局、由美子さんは自分の貯金や生活資金を切り崩し、「もらったもの」に対して自腹で税金を納めるという本末転倒な状況に追い込まれるのです。

 

家を守るために父を看取り、介護を担い続けた結果、残ったのは土地だけ。そしてその土地は売らない限り現金化できず、固定資産税や維持費も毎年かかります。「財産を相続した」というより「負担を背負わされた」と言ったほうが、由美子さんの心境には近いでしょう。

遺言書の内容どおりに相続すれば、由美子さんの自宅の土地は自分の名義にできますが、そのための相続税は656万円。現金は一切相続しないわけですから、相続税は自分のお金を出して払わなければならないのです。

 

法律上の救済策はあるが…

相続実務士として真っ先に思い浮かぶのは、遺留分侵害額請求です。由美子さんの遺留分は、法定相続分(1/2)のさらに1/2、つまり1/41億円相当)。実際の取得額との差額を、甥たちに金銭で請求できます。

 

また、長年の介護があれば寄与分を主張し、相続分を上乗せできる可能性もあります。
 

しかしどちらも、証拠資料や時間、精神的負担が大きく、由美子さんは「もう争いたくない」と法的手段を断念しました。

 

繰り返される「介護した人が損をする相続」

このケースは珍しい話ではありません。遺言書の内容ひとつで、何年も介護を続けた相続人が、現金ゼロ・納税だけ負う結果になる──現場では何度も目にしてきました。

 

防ぐための3つの備え

  1. 遺言は専門家と作る
     作成過程で全員が納得できる内容にし、後日のトラブルを防ぐ。
  2. 介護の記録を残す
     日記、領収書、通院記録などが寄与分の証拠になる。
  3. 納税資金の確保
     生命保険や生前贈与で“現金なき納税”を避ける。

 

最後に

「父は、本当は私にもっと渡したかったと思う。でも、この遺言がある以上……」


由美子さんの声は静かでしたが、その胸の内は複雑です。相続は、家族の人生の最終章です。しかし準備を怠れば、思いもよらぬ結末を迎えます。
 

介護した人が報われる相続を──それが、私たち相続実務士の願いです。

 

この悲劇を防ぐために

この事例は決して特別ではありません。遺言が一方的に作られた場合、相続人同士の関係悪化や、不公平感による争いは避けられません。特に、介護を担った相続人が不利な扱いを受けるケースは後を絶ちません。

 

防ぐためには、

  • 遺言作成の段階から全相続人が納得できる説明を受ける
  • 介護の記録を日記や領収書で残しておく
  • 生前から専門家を交えて財産分割や税負担の試算を行うことが必要です。

 

 

 

 

曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®

株式会社夢相続 代表取締役

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp)認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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