祖母は102歳、相続人は70代
看奈さん(42歳・仮名)が相談に訪れました。父方の祖母が102歳となり、近いうちに相続が発生する可能性があるため、家族で話し合いを進めているとのことです。
相続人は父親と、養子縁組をしている母親の2人です。父親が一人息子であったことから、相続を考慮して母親が祖父母と養子縁組をしていたようです。現在、その両親も70代を迎えています。
祖母の財産は、自宅、駐車場、預金などで、総額は約2億円。不動産が全体の4割、金融資産が6割を占めています。
すでに基礎控除を超過
祖母の相続人である父親と母親は、祖父が8年前に他界した際、駐車場や畑などの不動産と金融資産をすでに相続しています。看奈さんには妹がおり、両親の相続における相続人は、一次相続では3人、二次相続では2人となります。基礎控除額は一次相続で4,800万円、二次相続で4,200万円です。
現在、父親の財産は約1億円、母親は約8,000万円を保有しています。どちらが先に亡くなるかはわかりませんが、すでにそれぞれに相応の財産があり、さらに祖母の財産が加わることで、相続税の負担は一層大きくなると見込まれます。
今からできる生前対策
看奈さんのご相談は、祖母が亡くなった際にどのくらいの相続税がかかるのか、そして生前にどのような対策ができるのか、というものでした。幸い、祖母は現在体調も安定しており、すぐに亡くなる心配はないとのことです。
看奈さんのご両親は「自分たちはすでに財産を持っているので、できれば看奈さんと妹に引き継いでもらいたい」と考えているそうです。また、看奈さんと妹への相続は祖母の強い意向もありました。祖母は若い頃は職業婦人として当時としては珍しく自立して働いていました。看奈さんも妹も働いていて、家庭を築いていますが、「まだまだ人生は長いし、結婚していようとしていまいと何かあったときのために財産は持っていたほうがいいから」と孫への相続を強く希望していました。
そこでアドバイスしたのは、祖母に遺言書を作成してもらい、孫やひ孫に財産を遺贈する方法です。この場合、相続税は2割加算されますが、両親を経由せずに次の世代へ財産を直接渡すことができるのです。
家族会議で合意を得る
看奈さんはアドバイスを踏まえ、祖母や両親、妹を交えて家族会議を開き、全員の合意を得ることができたと報告してくれました。その結果、祖母は孫やひ孫に財産を遺贈する遺言書を作成することを決めてくれたそうです。
私は公正証書遺言の証人業務を担当するため、段取りを進めることになりました。不動産については、看奈さんが代表して相続することになりましたが、将来を考えて、看奈さんと夫の2人で共有名義にしたほうが安心だという結論に至りました。
こうして公正証書遺言の原案を確認できたため、公証役場に原稿を送付し、準備に入りました。祖母には印鑑証明書と戸籍謄本が必要となります。また、看奈さん一家と妹一家にも戸籍謄本や住民票を用意してもらい、財産を受け取る人の確認を進めました。証人2人については、私のほうで手配することにしました。
病院へ出張、病室で遺言書
祖母は体調を崩して入院していたため、公証人と証人が病室まで出向き、遺言書を作成することになりました。事前に看奈さんが祖母に遺言書の原稿を見せ、署名ができるよう確認するとともに、意思確認の予行演習も行っていました。
当日は、看奈さんの両親、看奈さん、妹がそろって病室に集まり、祖母と改めて話をした後、公証人と証人が交代で手続きを行いました。なお、相続人は遺言書作成の場に立ち会うことができないため、一時的に席を外してもらう必要があります。
祖母は102歳ながら、自ら署名を行い、公証人の問いかけにも答えることができました。孫やひ孫に財産を遺贈するという意思をしっかりと示すことができ、公正証書遺言は無事に完成しました。
