離婚しても「夫婦で築いた財産は、当然折半できるはず」だが…
「これからは、自分の人生を生きたい」
夫の突然の一言に、松田悦子さん(仮名・64歳)は耳を疑いました。
夫の誠一さん(仮名・65歳)は、大手企業に40年近く勤め上げ、この春に定年退職。長年の功労が認められ、退職金は3,000万円。これからは、夫婦で旅行に出かけたり、のんびりと庭いじりでもして暮らす——そんな老後を夢見ていた悦子さんにとって、青天の霹靂でした。
「もう少し自分の人生を自由に生きたい」「このまま老後を“夫婦”で過ごすのは重い」
——夫はそう告げ、弁護士を通じて正式に離婚を申し出てきたのです。
夫婦で築いた財産は、当然折半できるはず。そう思っていた悦子さんでしたが、提示された通帳を見て愕然とします。
「3,000万円あったはずの口座に、残っていたのはわずかに600万円ほど。残りはいったいどこに?」
問いただしても、「投資に回した」「生活費として使った」などと歯切れの悪い返事が返ってくるばかり。しかも後日、誠一さんにはすでに交際相手がいたことが発覚し、その女性との生活資金に使われていた可能性も出てきました。
さらに調べていくと、定年の1年前から少しずつ“別口座”に資産を移し替えていたことも判明。「夫婦の共有財産」と信じていたお金は、実質的に夫の個人資産として切り離されていたのです。
悦子さんは、30年間専業主婦として家庭を支えてきました。子ども2人を育て上げ、家計管理もすべて夫に任せてきたため、自分名義の資産はほとんどありません。年金も、国民年金のみで満額に届かず、月に7万円程度。
「自分の人生を見直すタイミングが、いつか来ると思っていた。でも“その日”が突然すぎて、何から手をつけたらいいのか…」
今は、ハローワークでシニア向けの就労支援講座を受け、清掃や軽作業の仕事を少しずつ始めているといいます。
