相続では、わずかな判断の差や制度の選択が、税額に大きな影響を及ぼします。今回ご紹介するのは、相続対策を行わずに亡くなった父親の遺産1億5,000万円をめぐる事例です。築50年以上の自宅とアパートには借入もなく、一見シンプルに見える相続でしたが、税額は1,319万円。配偶者の特例をどう使うかで、659.5万円を払うか、相続税をゼロにできるかが変わってきます。節税の成否を分けるポイントを、相続実務士・曽根惠子氏(株式会社夢相続 代表取締役)が解説します。
相続対策の準備をしていたが…父が急死
拓実さん(50代男性)が、母親(80代)と相談に来られました。父親(80代)の生前対策として自宅の建て替えを検討しているとのこと。そこで、父親の財産の確認と評価をして、自宅建て替えによる相続プランを作成することになりました。
相続人は母親と子ども3人。拓実さんは長男で、2人の妹は嫁いでいます。相続税の基礎控除は5,400万円です。財産は自宅と賃貸アパートで、一つの敷地に2棟の建物が建っています。同じ時期に建てているのですが、すでに築50年ほど。修繕費もかかるようになり、建て替えの時期だと言えます。
ところが、財産の確認が終わった頃、父親は入院中に体調が悪化して、亡くなってしまったのです。拓実さんからの報告を受けて、生前プランは中断し、相続後の手続きに切り替えることになりました。
父親の財産は1億5,000万円弱
自宅は父親と母親と共有名義になっています。自宅の奥に賃貸アパートを建てていて、2DK8万円が4世帯ですので、毎月32万円の家賃が入り、生活費にしているということです。よって自宅と賃貸アパートは母親が相続することは必須と言えます。
財産の6割が不動産、4割が預金、株式です。預金や株式は亡くなった日現在の残高をもとに評価をしますが、確認していた金額に大きな増減はありません。葬儀費用や未払金を引くと1億4,937万円だとわかりました。相続税1,319万円と試算されました。
とりあえずの節税は配偶者の特例
父親は相続対策を何も行わないまま亡くなりました。自宅やアパートは築50年以上が経過しており、建て替えもしていなかったため、建築費の借入などの負債はありません。
相続税については、「配偶者は相続分の半分まで非課税」という特例があるため、相続税1,319万円のうち半分は免除されますが、残りの659万5,000円は子どもたちが負担することになります。
しかし、配偶者が1億6,000万円まで無税で相続できる特例もあります。これを適用すれば、母親が全財産を相続することで相続税はゼロとなり、結果として1,319万円の節税が可能になります。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
一般社団法人相続実務協会 代表理事
一般社団法人首都圏不動産共創協会 理事
一般社団法人不動産女性塾 理事
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書86冊累計81万部、TV・ラジオ出演358回、新聞・雑誌掲載1092回、セミナー登壇677回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2025年版 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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