お兄ちゃん、どういうこと?資産家80代父の遺産は4億円だが…〈80代母と50代長女〉は置き去りに。ある日届いた司法書士からの「一通の書面」に思わず横転したワケ【相続の専門家が解説】

お兄ちゃん、どういうこと?資産家80代父の遺産は4億円だが…〈80代母と50代長女〉は置き去りに。ある日届いた司法書士からの「一通の書面」に思わず横転したワケ【相続の専門家が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

相続は「争族」にしないための仕組みづくりが重要です。ところが、適切な情報共有や配慮が欠けると、遺言書そのものが新たな火種となることもあります。今回ご紹介するのは、父親の相続をめぐり、面識のない司法書士から突然届いた公正証書遺言に戸惑う佳代さん(50代女性)の事例です。遺産の配分や遺留分、そして遺言執行者の責任とは? 相続実務士・曽根惠子氏(株式会社夢相続 代表取締役)が解説します。

遺言執行者とは

遺言執行者(いごんしっこうしゃ)の役割は、故人(被相続人)が遺言書で指定した内容を実現するための責任を担うことです。これは法律に基づいた重要な役割で、遺産相続や遺言の執行において中心的な役割を果たします。日本における遺言執行者の役割を以下に説明します。

 

1.遺言執行者の概要

遺言執行者とは、被相続人が遺言書で指定した者、または家庭裁判所によって選任された者を指します。遺言執行者が指定されていない場合、相続人全員が共同で遺言の内容を執行する必要があります。

 

遺言執行者は主に以下のようなケースで活躍します:

遺産の分割方法が具体的に指示されている場合。
子の認知や相続放棄など、法律的な手続きが必要な場合。
財産の名義変更や債務の清算が必要な場合。

2.遺言執行者の主な役割

遺言執行者の役割には、以下のような具体的な業務があります:

 1】遺言書の内容確認
遺言書を開封してその内容を確認します。
公正証書遺言の場合、開封手続きは不要ですが、自筆証書遺言の場合は家庭裁判所で検認を受ける必要があります。

2 相続財産の調査・管理
被相続人が残した財産や債務を把握し、リストを作成します。
遺産の価値を評価し、必要に応じて保全措置を行います(たとえば、土地や建物の管理、債権の回収など)。

 3】遺言内容の執行
財産分与や名義変更の手続き。
特定の相続人や受遺者に財産を分配する。
遺言書に指示された子の認知など、法律的な行為を実行。

4 債務の清算
故人が残した負債や税金を精算します。

5 その他必要な手続き
不動産登記の変更手続き。
銀行口座の解約や残高の移動。
納税手続きや相続税の支払い。

3.遺言執行者の権限と責任

・権限: 遺言の執行に必要な範囲で、遺産を管理・処分する権限があります。ただし、遺言書に書かれていない行為を独断で行うことはできません。

・責任: 遺言執行者はその職務を誠実に遂行する義務があります。もし職務怠慢や不正行為があった場合、損害賠償責任を問われる可能性があります。

4.遺言執行者の選任方法

・遺言書に「遺言執行者として○○を指定する」と明記する。
・遺言執行者が指定されていない場合、家庭裁判所に申立てをして選任してもらう。

5.報酬

遺言執行者は報酬を受け取る権利があります。ただし、遺言書で具体的な金額が指定されていない場合、相続人全員の協議や家庭裁判所の判断に基づいて決定されます。

6.遺言執行者を引き受ける際の注意点

・責任が重い役割のため、専門的な知識が必要になる場合があります。
・相続人との関係が複雑な場合や遺産が多い場合は、弁護士や司法書士などの専門家に依頼することも検討できます。

 

遺言執行者は、遺言の実現と相続トラブルの回避に重要な役割を果たします。責任が大きいですが、適切に選任されれば遺産分配が円滑に進むため、信頼できる人物や専門家を選ぶことが推奨されます。

遺言執行者の通知義務

遺言執行者には、遺言の内容を相続人や受遺者に伝える通知義務があります。この義務は、遺言執行者が遺言の内容を正しく実行するための重要なステップであり、相続人や利害関係者に対する透明性を確保する目的があります。

1.通知義務の内容

遺言執行者は、次のようなことを通知します。

1 遺言書の存在と内容の通知
遺言書に基づき、相続人や受遺者にその内容を正確に伝えます。
遺言書の内容がどのように自分に影響するのかを明確にする必要があります。

2 遺産分割や財産管理の計画
遺産分割の具体的な方法やスケジュールを説明します。
財産や債務の現状についての報告を行います(例:財産目録の提示)。

2.通知の対象者

通知の対象となるのは、遺言執行に関係する以下の人々です。

・相続人(遺言で遺産が配分されている者を含む)

・受遺者(遺言で特定の財産を受け取る権利が与えられた者)

その他の利害関係者(債権者や遺言で指定された特定の人物など)

3.通知のタイミング

通知のタイミングは、次の2つのポイントが重要です。

1 遺言執行者に就任した後速やかに

遺言執行者がその役割を引き受けた時点で、遺言内容を相続人や受遺者に知らせる必要があります。

2 財産目録を作成した後

遺言執行者は、遺産の全体像を把握し、財産目録を作成したうえで、その内容を通知する義務があります。

4.通知方法

通知の方法については法律上の明確な規定はありませんが、以下の方法が一般的です。

・書面通知:相続人や受遺者に遺言書の写しや財産目録を郵送または手渡しする。
・面談:相続人や受遺者と直接会って説明する。
電子メールや電話などで通知する場合もありますが、証拠が残る方法が推奨されます。

5.通知義務の目的と重要性

通知義務を果たすことで以下のようなメリットがあります。

・透明性の確保:相続人や受遺者に遺言内容を正確に伝え、誤解や争いを防ぎます。
信頼の確立:遺言執行者としての誠実さを示すことで、相続人との信頼関係を築くことができます。
・法的義務の履行:通知義務を怠ると、遺言執行者としての責任を問われる可能性があります。

6.通知義務を怠った場合の影響

遺言執行者が通知義務を怠った場合、以下のような問題が生じる可能性があります。

・遺産分割協議や執行の遅延:関係者に適切に通知されないと、手続きが滞ります。
・法的責任:相続人や利害関係者から不信感を持たれ、損害賠償を請求される場合があります。
遺言無効の主張:不適切な執行や通知の不備により、遺言内容が争点になることがあります。

7.専門家の関与の検討

通知内容が複雑な場合や、相続人間で争いが予想される場合は、弁護士や司法書士など専門家にサポートを依頼することが推奨されます。  

 

 

曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®

株式会社夢相続 代表取締役

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp)認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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