祖父の代から受け継いだ土地も愛娘に…直後に発覚した「7センチの壁」問題で60代女性の〈穏やかな老後〉が一変したワケ【相続の専門家が解説】

祖父の代から受け継いだ土地も愛娘に…直後に発覚した「7センチの壁」問題で60代女性の〈穏やかな老後〉が一変したワケ【相続の専門家が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

親から相続した実家が空き家になったとき、残すべきか、売るべきか──。寿美礼さん(60代)は「祖父の代から続く土地をできるだけ残したい」と家族で話し合い、敷地の半分を売却して残りに家を建て替えることを決断しました。しかし売買契約が成立した直後、わずか7cmの“越境”が発覚。複数の隣地所有者との交渉が必要となり、決済までの道のりは想像以上に険しいものとなりました。現場で何が起き、どのように解決の糸口を見いだしたのでしょうか? 相続実務士・曽根惠子氏(株式会社夢相続 代表取締役)が解説します。

空き家になった自宅、これから、どうする

寿美礼さん(60代女性)の母親が亡くなり、実家は空き家となっていました。寿美礼さんは一人娘で、結婚して実家を離れ、家族で夫名義の家に住んでいます。実家を相続したものの、実家に戻って住むということはありません。

 

土地は90坪あり、いままでは土地の半分は庭になっていて、母親は庭の手入れを楽しみにされていたようですが、仕事もある寿美礼さんにとっては空き家の維持も庭の手入れもできないのでどうしたらいいかと相談がありました。

 

選択肢はいくつかありますが、主には次の3つになります。

  1. 全部、売却して、資産組替する
  2. 全部、売却して、賃貸住宅を建てる
  3. 半分売却して、賃貸住宅を建てる

半分売却、半分に家を建てる

寿美礼さんは家族と話し合い、実家はできるだけ残したいという結論に至りました。とはいえ、敷地が広いため、すべてを残したまま建て替えるのは難しく、半分を売却し、その代金で実家を建て替えて娘家族に住んでもらうことにしました。

 

半分を売れば建築費が確保でき、残り半分を残すことで、祖父の代から受け継いできた土地や場所を守ることができます。娘家族も、幼いころから何度も訪れてきた祖父母の家が残り、しかも自分たちが住めるのなら、ぜひそうしたいと賛同し、家族の方針は一致しました。寿美礼さんは実家問題も片付き、これでもう思い残すことはない、平和な老後が送れると安心しきっていました。

 

その後、角地を残す形で測量・分筆を行い、半分を売却することにしたところ、不動産会社からすぐに購入申し込みがありました。契約も無事に終わり、残金決済までに測量と分筆も完了し、引き渡しの段取りまで整いました。ところが、その段階で思わぬ問題が発生したのです。

越境物の発見──“地中のビスとコンクリート土台”

売買契約は成立していましたが、契約条件には「越境物が発見された場合は、解消または覚書を取得すること」と明記されていました。そのため、速やかに測量士による現地調査が行われました。

 

そこで測量士から報告されたのは、北側隣地からの“コンクリート土台(いわゆる捨てコン)”および“フェンスの留め金となるビス”による越境です。コンクリートの張り出しは、推定でわずか7cmほどでした。

 

この結果を買主に報告したところ、「契約書のとおり、越境物の解消または覚書の取得をしてください」との返答がありました。これを受け、売主である寿美礼さんと仲介会社である当社は、問題解消に向けて本格的に動き出しました。

 

まず境界確認を行い、隣地所有者との交渉を担当した土地家屋調査士に覚書取得も依頼しましたが、相手が意思疎通の難しい隣人であったため、引き受けてもらえませんでした。結果として、仲介会社である当社が直接担当することになったのです。

 

なお、寿美礼さんの土地は二方向で隣地に接しており、相手は個人のK氏と法人のA社の二者でした。

 

個人K氏 「連絡が取れない」壁

越境対応の初動として、隣地所有者であるK氏に連絡を試みましたが、問題はそこから一気に複雑化しました。

 

  • 測量士からの初回連絡以降、K氏には数十回に及ぶ電話連絡と留守電メッセージが残されるも、ほとんどが不通。
  • 売主の寿美礼さんもK氏と面識がなく、町会や近隣住民を通じた接点もないため、個人的な話し合いの糸口もつかめませんでした。
  • 覚書の原案を作成しレターパックで送付。これに対しては一時的に電話がつながり、「自分が壊すときに壊す」と発言。しかし、その後も文書の返送や明確な返答はなく、解決の道筋が見えない状況が続きました。

 

この間、売買当事者間では、「いつ引き渡しができるのか」「このまま契約は履行されるのか」といった不安が高まり、仲介会社の当社も対応負担も日増しに増大。
買主の信頼確保のためにも、早急な打開策が求められました。

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