インバウンドを増やすなら「なぜ日本を選んだのか?」と問うよりも…ビジネスのリスクとチャンスを見通す「着眼点」【経済評論家が解説】

インバウンドを増やすなら「なぜ日本を選んだのか?」と問うよりも…ビジネスのリスクとチャンスを見通す「着眼点」【経済評論家が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

「この商品は売れそうだ」「この商売は儲かりそうだ」などと思うと、すぐさま行動に移したくなるのが人情でしょう。しかし、ものごとはそう簡単ではありません。表面的な印象のみならず、側面や裏面からも事情を確認することが大切です。とくに重要なのは「声なき声」だといえます。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

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パチンコ屋にいる客が「みんな笑顔」のワケ

皆さんは、パチンコ屋やラスベガスのカジノに行ったことはあるでしょうか? パチンコ屋やカジノに入ると、店にいる客の多くは儲かって笑っています。しかし、それを見て「この店は客に優しいに違いない。自分も儲かりそうだ」などと考えるのは危険です。本当に客に優しい店ならば、赤字で倒産しているはずですから。

 

おそらく、店には朝から1,000人の客が来て、そのうち990人は負けてすでに帰ってしまい、偶然勝っている10人だけが店に残っているのでしょう。そうだとすれば、筆者が遊びはじめたとして、991人目の負け客になる可能性が高く、11人目の勝ち客になる可能性は低そうです。

 

パチンコやカジノで負けるくらいならいいのですが、誤解で人生を誤らないようにしたいものです。

「成功者」の影にいる、大勢の脱落者たち

学生に向かって青年実業家が「君たち、サラリーマン(注:男女を問わず、公務員等を含む)なんてつまらないよ。起業して私みたいな金持ちになろうよ」と呼びかけることがあります。それを聞いた学生が、「起業すれば金持ちになれるのか。起業しよう」と考えるのは危険なことです。実際には起業して失敗して困っている人も大勢いるからです。

 

そうした人は学生の前で「起業なんかやめておけ」と演説することはないので、失敗している大勢の存在に気づいていない人も多いのが現実です。

 

スポーツ選手やミュージシャンを目指す若者も一定数いますが、華やかな活躍をしている人の何倍も下積みで終わる人がいることに、思いを馳せてもらいたいものです。

 

「起業には失敗のリスクがあるということをしっかり認識したうえで、それでも夢を追いかけたい」という学生なら、応援しますよ。もっとも実際には、自分の能力を過大評価して周囲から見ると明らかに無謀な夢を追っているような若者や、「就活をサボりたいから、起業したいと言っておこう」という学生もいるでしょうから、難しいところですが。

 

余談ですが、さまざまな場面で「どうしてこの店は倒産しないのだろう」などと考えてみると、面白いことに気づけるかもしれません。たとえば無料で保険の相談に乗ってくれる店がありますね。おそらくその店は客が保険に加入するたびに保険会社から謝礼をもらっているのでしょうね。

満足している人は黙っている

講義の最中、「寒いからクーラーを切ってほしい」と学生に言われたとします。すぐにスイッチを切ると、多くの学生からブーイングが来るかもしれないので、「みなさんも切ってほしいですか?」と聞いたほうがいいでしょうね。いまの室温に満足している人は、わざわざ「クーラーを切らないでください」などと言わずに黙っているので、そういう人々がクーラーを切った途端にブーイングするのです。

 

教室のなかなら、皆の意見を聞くことも可能ですが、そうでもない場合には注意が必要です。昔、経済に詳しくない政治家が高齢者から陳情を受けました。「私たち金利生活者は、金利が低くて困っている。金利を上げてほしい」というのです。それを聞いた政治家は、「金利を上げるべきだ」と演説したのです。

 

金利を決めるのは政治家ではなく日銀総裁なのですが、その話は本稿では忘れておきましょう。すると、選挙区の中小企業が怒鳴り込んで来たそうです。「俺たちは、金利が低いから生き延びているが、金利が上がったら倒産だ」というわけです。

 

金利が低くて困っている人の話を聞いたら、金利が低くて喜んでいる人がいるかもしれない、と想像してみるべきだったのでしょうね。言うは易く、行うは難し、ですが。

お客様の「クレーム」を聞きすぎるのも危険

客からのクレームを製品改良に役立てている会社は多いようです。クレームに腹を立てるのではなく、前向きに活用しようという姿勢はいいことだと思いますが、これも慎重に行う必要がありそうです。

 

「お前の製品を買ったらすぐに壊れた」というクレームを聞いて、頑丈なものに改良したら、重くてデザインが悪くなって売れ行きが落ちた、ということになりかねないからです。

 

クレームに対応したのに売れ行きが落ちた理由を知るのは容易ではありません。客は「お前の製品は重くてデザインが悪いから買わなかったぞ」などとクレームして来るわけではなく、黙ってライバルの製品を買うだけですから。

 

本当ならば、ライバル製品の売り場に行って、「どうして我が社製品ではなくライバル社製品を買ったのですか?」と聞きたいところですが、それは容易なことではないでしょうね。

 

政府がインバウンドを増やそうとした場合、日本に来た人に日本の好きなところや嫌いなところを聞くのもいいですが、本当は日本に来なかった人に「どうして日本ではなく、その国を選んだのか」を聞きたいところですね。まあ、それも容易なことではないので、想像力を働かせるしかないのでしょうが。

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義

経済評論家

 

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