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日本・シンガポール租税条約とOECDの潮流
この判断は、日本・シンガポール租税条約の規定とも一致しています。
同条約では、「企業が事業を行う一定の場所」で行われる活動が「準備的または補助的な性格」にとどまらない場合、その場所はPEに該当するとされています。
そして、このPE該当性の判断は形式的な所在地ではなく、実質的な活動内容に基づいて判断されるという重要な原則が採用されています。
また、背景にはOECDのBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトの影響もあります。BEPS行動計画では、多国籍企業が税負担を回避するために利用してきた「実体なき拠点」や「形式的取引」による租税回避を防止することが柱となっており、PEの認定基準もより厳格・実質重視へとシフトしています。
この事例では、日本国内の倉庫が商品の販売活動の中核を担っていた実態があり、単なる在庫保管ではなく、事業利得の創出に不可欠な要素として認定された点がポイントです。
アメリカならどう判断するか
このような事例が米国で発生していた場合、IRS(米国国税庁)もおそらく日本と同様の立場を取ったと考えられます。
米国の税制では「Substance over form(形式より実体)」の原則が重視されており、事業活動の経済的実体に基づく課税が基本です。また、米国は移転価格税制やPE課税においても早期からOECD基準に整合的なアプローチを採っており、「どこで所得が実際に生み出されているか」に極めて敏感です。
従って、実質的に国内で事業が行われていると判断されれば、形式的に海外法人名義であっても米国内で課税される可能性は高いでしょう。
租税非回避地へと変貌したシンガポール
かつて「タックスヘイブン的」に利用されることも多かったシンガポールですが、近年はOECDやG20による国際的な圧力を受け、税制の透明性や経済的実体(substance)要件の強化が進んでいます。
現在では、実体を伴わない「箱だけ法人(ペーパーカンパニー)」に対しては、租税条約上の優遇も制限される可能性があり、単なる節税拠点としての機能はほぼ失われつつあるといえるでしょう。
実体ある事業活動こそが重要に
今回紹介した事例では、国際的な法人スキームを用いた事業展開においても、「実体重視」の税務判断が支配的になっていることを示す好例です。
法人登記が海外にあったとしても、商品の受発注、保管、発送といった主要なビジネス機能が日本国内で行われていれば、PEと認定され、日本での納税義務が発生するリスクがあります。
「どこに登記しているか」ではなく、「どこで価値が創出されているか」――これが今後の国際課税の核心となる考え方です。
税理士法人奥村会計事務所 代表
奥村眞吾
