(※写真はイメージです/PIXTA)

政府は、2025年度の最低賃金を全国平均で初めて1,100円を超える水準に引き上げる見通しだ。実質所得の目減りを補い、消費を下支えする狙いがあるが、対応が難しい中小企業にとっては経営への圧力となる可能性もある。最低賃金の引き上げが、期待される「成長と分配の好循環」を実現できるかどうかが問われている。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

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2025年度の最低賃金、過去最大の引き上げ額に

2025年度の最低賃金は、全国加重平均で時給1,118円(前年比+63円)となる見通しだ。中央最低賃金審議会が引き上げの目安を答申し、すべての都道府県で時給1,000円を超える水準が実現する見込みとなった。最低賃金の全国平均が1,100円台に達するのは初めてで、引き上げ額としても過去最大。政府が掲げる「成長と分配の好循環」を象徴する動きともいえる。

 

石破首相は「物価高による実質所得の目減りを補うため、政策を総動員して賃上げを実現する」と強調。最低賃金の引き上げは、政権の中核的な政策と位置づけられている。

中小企業に重くのしかかる人件費増加

しかし、こうした前向きな動きの一方で、特に中小・零細企業からは懸念の声が絶えない。人件費の増加は、経営に直接的な圧力をもたらすからだ。価格転嫁が困難な業種では、「従業員を減らさざるを得ない」「非正規雇用を見直す必要がある」といった声も聞かれ、雇用や事業規模に影響が及ぶ可能性が指摘されている。

 

実際、2025年6月に日本商工会議所と東京商工会議所が発表した「中小企業の賃金改定に関する調査」では、賃上げに踏み切った企業の多くが「価格転嫁の遅れ」や「利益圧迫の懸念」を挙げている。また、独立行政法人中小企業基盤整備機構による「中小企業景況調査(2025年4〜6月期)」では、サービス業や小売業において、人件費や原材料費の高止まりが経営悪化の一因となっていることが明らかになった。

最低賃金引き上げ、経済成長けん引の決定打にはなり得ない

こうした現状を踏まえ、労働問題に詳しい日本総合研究所客員研究員の山田久氏は、最低賃金の引き上げについて次のように述べている。

 

「最低賃金の引き上げは、生活の下支えとして一定の意義があります。特に実質賃金がマイナスの局面では、可処分所得を維持するための重要な手段です。そうした意味で、最低賃金は“緩衝材”としての役割を果たしています」

 

ただし、山田氏はそれが経済成長をけん引する決定打にはなり得ないとも指摘する。

 

「最低賃金の引き上げは必要ですが、万能ではありません。一部で消費を下支えする効果はありますが、企業には人件費というコストが重くのしかかります。とりわけ中小企業は価格転嫁力が乏しく、結果的に投資や雇用に抑制的な影響を及ぼす可能性があります」

 

「最低賃金単独で『成長と分配の好循環』を生み出すという考え方には、限界があると考えるべきです」

 

最低賃金の引き上げの経済全体にとってのプラス効果については、過度な期待はすべきでないといえる。

価格転嫁困難な環境が中小企業の障壁に…制度改革が必要

山田氏はまた、持続的な賃上げには企業の生産性向上が不可欠と指摘。そのうえで、価格転嫁が困難な環境が中小企業の大きな障壁になっているとして、制度的な改革の必要性を訴える。

 

「企業が人材投資や技術導入に踏み出し、労働の価値を高めることが求められます。最低賃金の引き上げはその契機になる側面もありますが、一方で、対応できない企業が淘汰されていく側面もあるのです」

 

「取引慣行や商習慣が壁となり、最低賃金の引き上げ分を価格に転嫁できずに苦しむ企業は少なくありません。政府も『パートナーシップ構築宣言』などで是正を進めていますが、こうした変化には時間がかかります」

賃金上昇に懸念される、「雇用調整」という副作用

価格転嫁が進まないまま賃金だけが上がれば、企業は雇用の調整に動くリスクもある。制度的な支えがなければ、最低賃金引き上げは副作用の方が大きくなる可能性もあるだろう。

 

さらに、最低賃金の上昇が労働者側の就業行動に与える影響も無視できない。たとえば、社会保険制度における「106万円の壁」を意識して、パート労働者が意図的に就業時間を抑える動きも見られる。

 

「こうした制度の歪みが働く意欲を削いでいます。人手不足が深刻化する今、就業調整の動きを放置すれば、貴重な労働力を活かせなくなってしまいます。社会保険制度の見直しも不可欠です」

最低賃金引き上げの先に「本質的な改革」を見据えられるか

山田氏は、最低賃金の引き上げを「構造改革の入口」と位置づける。

 

「最低賃金が経済成長をもたらすわけではありません。それにどう対応するかが問われているのです。企業は“選ばれる価値”をどう生み出すかを考え、政府は制度改革と多面的な支援を同時に進めていく必要があります。この議論は単なる数字の問題ではなく、日本経済の競争力と社会の持続可能性に直結しています。最低賃金の引き上げを意味あるものにするためには、私たちがその“入口”の先に、本質的な改革を見据えられるかどうかにかかっているのです」

 

最低賃金の大幅な引き上げは、賃上げによる消費の底上げを期待する政府の戦略の一環だ。しかし、中小企業の経営環境、労働供給の制約、地域間の格差といった多層的な課題を解決するには、それだけでは不十分だ。数字を動かす政策の背後に、構造的な改革の推進力が問われている。
 

 

 

THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班

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