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男性育休が37.9%
厚生労働省が発表した『2024年度雇用均等基本調査(事業所調査)』によると、男性社員が育児休業を取得した事業所の割合が過去最高の水準に到達した。配偶者の出産があった男性が所属していた事業所のうち、少なくとも一人が育休を取得したケースは全体の37.9%を占め、40%に迫っている。
この動向は、制度改正を背景とした変化の表れともいえる。特に注目されるのは、2022年から段階的に施行された「産後パパ育休(出生時育児休業)」制度の浸透だ。短期間かつ柔軟な取得が可能になったことで、これまで取得をためらっていた層にも波及している。前年度と比較すると、男性の育休取得事業所の割合は13ポイント以上上昇しており、制度と意識の両面で進展が見られる。
制度の完成度は高いが、現場運用には課題
こうした制度的な進展について、立命館大学の筒井淳也教授(社会学)は次のように評価する。
「育児休業制度の大きな目標は、仕事と家庭の両立ですが、それに加えて、異性カップルの子育てにおけるジェンダー差の縮小という観点も重要です。仕事がジョブ単位で切り分けにくい日本において、柔軟な取得ができる仕組みは非常に意義があり、制度としての完成度は高くなっていると言えます。日本の育児休業制度は顕著な改善がなされており、制度としてはかなり完成度が高くなっています」
一方で課題も残されている。筒井氏は、
「公的制度は整っていますが、問題は現場(職場)での運用にあります」
と指摘する。特に取得率の格差について、次のように分析する。
「男性の取得率は上がっていますが、取得期間の短さなど、男女間の格差は依然として大きい。特に中小企業では取得のハードルが高く、日本独特の元請け・下請け構造のなかで、大企業の働き方改革のしわ寄せが下請け企業に及ぶことで、リソース不足がより深刻になる懸念もあります」
有期契約労働者にも広がる取得の動き
育児休業の取得拡大は正社員に限らない。有期契約の男性労働者が育休を取得した事業所は全体の3割超にのぼり、一昨年の倍以上に伸びている。企業が制度の対象範囲を明確化し、周知を進めていることが背景にあるとみられる。
一方、女性の育休取得は依然として高水準で、対象者のうち84.1%が取得。有期契約労働者に限っても7割超と、雇用形態を問わず制度利用が進んでいる。
また、育休からの復職率も高く、女性は93.2%、男性では97.3%に達した。男性の育休取得期間では「1〜3ヵ月未満」が最も多いが、「2週間以上」の取得者も半数近くに上り、取得期間は徐々に延びつつある。
情報開示と意識形成
男性の育休取得状況を外部に公表する事業所も増えており、全体で2割を超えた。従業員500人以上の大企業では6割以上に達し、こうした情報開示が社内外の意識変化を促しているとされる。
ただし筒井氏は、
「取得件数だけでなく、取得期間の情報も含めてどう開示していくかが今後の課題です」
と指摘する。
単に「取った」という実績が数字に反映されるだけでは、制度の実効性が見えづらいという懸念がある。
中小企業に残る制度運用の壁
制度整備が進む一方で、企業規模による格差は依然として顕著だ。育児に関する時短制度の導入率は、大企業に比べ中小・零細企業で低く、全体では約6割にとどまる。さらに、そのうち8割近くが短縮分の給与を「無給」としている。
筒井氏はこの点について、制度の柔軟化が進む一方で、
「制度の複雑さが増し、制度理解が追いつかない企業や労働者が多いといえます」
と語る。
「小規模な企業における制度運用の難しさにも関連しますが、制度を柔軟化するなどの改善を進めれば進めるほど、制度が複雑になり、理解している人が少なくなるというジレンマもあります。働き手が制度を隅々まで理解しているケースなど稀ですし、規模の小さい企業では人事担当者の理解も追いつかない可能性があります。制度のわかりやすい解説や周知にも、まだ課題があるように思います」
育休とキャリア形成の関係も検証が必要
育休取得がジェンダー平等に及ぼす長期的影響についても、筒井氏は次のように言及する。
「ジェンダー格差の観点からすれば、管理職に占める女性の割合がきわめて低いのが日本の特徴。この点については、育児休業やその後の時短の利用が、キャリアにどのような影響を及ぼすのかを長期的に検証していくことも重要になります」
制度は形として整いつつあるが、それを実際に「使えるかどうか」は、職場の文化や企業の構造、そして社会全体の意識変容にかかっている。見かけ上の数値にとどまらず、制度の質と運用実態にこそ、私たちは今こそ目を向けるべきである。
THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班
