(※写真はイメージです/PIXTA)

首都圏の新築マンション価格が過去最高を更新し、もはや「億ション」があたりまえとなった今、住宅は「住まい」ではなく投資対象となりつつある。そのような事情を背景に、政府や自治体の間で「空室税」導入の議論が進み始めた。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

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首都圏の新築マンション価格、過去最高更新

首都圏の新築マンション価格が記録的な水準に達している。不動産経済研究所によると、2025年上半期(1~6月)の首都圏における新築分譲マンションの平均価格は8,958万円となり、半期ベースで過去最高を更新。前年同期比で6.5%上昇し、東京都区部では平均価格がついに1億円を突破。いわゆる「億ション」が市場の中心価格帯となっている。

 

価格上昇の要因には、建設コストの高騰がある。人件費や資材費の上昇、円安による輸入資材の価格押し上げ、特に高層マンションで多用される海外建材への影響は無視できない。さらに、脱炭素対応による仕様強化や、労働力不足による工期の長期化もコスト増を招いている。

 

加えて、デベロッパー各社の戦略が価格上昇を後押ししている。供給戸数は年々減少傾向にあり、2025年上半期も1万戸を下回る水準にとどまった。これは4年連続の減少であり、「量より質」を志向する高付加価値志向の開発が主流となっている。

恩恵を受けているのは一部の富裕層に限定か

このような構造の変化は、マンションを「住まい」ではなく「資産」としてとらえる富裕層にとっては追い風だ。一方で、一般層は価格の壁に直面している。住宅金融支援機構によれば、「無理なく購入できる価格」は年収の5〜6倍とされるが、東京区部の2人以上世帯の平均年収(約807万円)に対し、新築マンション価格はその約10倍。購入を断念し、賃貸へシフトする中間層が増加している。

 

このような状況のなか、恩恵を受けているのは現金購入が可能な一部の富裕層や、都心物件を複数所有する層に限られている。都心5区では、外国人投資家や法人名義での購入が増加。自宅用ではなく、資産運用や相続対策を目的とした取得が目立つ。いまや中間所得層にとって「都心に住みたい」という希望は、非現実的なものになりつつある。

海外で導入されている「空室税」とは?

こうした実情を踏まえ、国民民主党の玉木雄一郎代表は2025年7月の参院選向けの追加公約として、「投機目的で購入され、居住実態のない住宅」に対して課税する「空室税」の導入を検討すると表明し、下記のように述べている。

 

「自国民が、自分の国で安心して、適正な価格で住み続けられる環境を確保する。他国の例も参考にしながら、具体策を検討したい」(玉木雄一郎代表)

 

空室税とは、一定期間以上空き家状態にある住宅に対し、固定資産税などを上乗せして課税する政策であり、住宅の投資対象化を抑制し、住居の健全な流通と利用を促す狙いがある。海外では、パリにおいて居住実態のない物件に最大60%の課税措置があるほか、カナダ・バンクーバーでは住宅の空室に対して1~3%の課税が行われている。

神戸市、京都市で導入

日本国内でも、空室税の導入を検討・実施する動きは広がりつつある。たとえば神戸市は2025年1月、「タワーマンションの空室」に着目した課税制度の検討を表明。高層階区画が投資目的で購入されたまま長期間空室となっている実態が背景にある。

 

また、京都市ではすでに2022年3月に「非居住住宅利活用促進税(通称・空き家税)」が可決され、2029年からの施行を予定している。市街化区域内で居住実態のない空き家や別荘・セカンドハウスなどに対し、家屋の固定資産税評価額の0.7%を上乗せして課税する。京都市によれば、市内の空き家は約10.6万戸、別荘・セカンドハウスは約2,200戸。そのうち約1.5万戸が課税対象になると見込まれている。

 

このような動向を受け、国際課税研究所の矢内一好首席研究員は以下のように述べる。

 

「地方自治体が所有の実態に踏み込む形で課税を検討するのは、日本の不動産税制において一つの画期的な転換点となり得る」

 

さらに矢内氏は、玉木氏が空室税を政党の公約に掲げた意義を次のように評価する。

 

「空室税という制度が選挙公約にまで盛り込まれたのは、単なる住宅政策にとどまらず、税制と資本のあり方を問い直す国家的な論点になってきている証左だ」

 

政党が空室税を掲げる背景には、不動産価格の高騰だけでなく、外国人投資家による都心部の不動産への集中投資があると見られる。

 

矢内氏は、

 

「制度の抜け穴を突いて法人名義や代理名義で購入される不動産が都市部に集中しつつある。これはタワーマンションの管理問題にとどまらず、日本の土地利用政策全体に長期的な影響を及ぼす」

 

と警鐘を鳴らす。

 

玉木氏は「空室税は居住実態に着目した再配分の仕組みとして、健全な不動産市場を守るための手段になり得る」と語っており、住宅を「住む場」として保護する制度にしたいようだ。

税制改正で税率引き上げの可能性はあるか

なお、現行の所得税法では、不動産譲渡益は分離課税されており、所有期間5年超は15%、5年以下は30%の税率が適用される。

 

矢内氏は、「空室税が資産課税的な性格を持つ一方で、譲渡段階でのキャピタルゲイン課税の強化こそが本筋だ」と述べ「短期譲渡への税率を40%~50%に引き上げるなど、明確な投機抑制策は税制改正で可能」との見解を示している。

 

さらに、かつて存在した土地重課制度の都市部限定での復活についても、「水面下で議論が進んでいる」と明かす。

制度設計には高度なバランス感覚が不可欠

空室税をめぐる議論は、単なる税金の問題にとどまらない。地域コミュニティにおける「住む権利」と「所有の自由」が交錯するなか、制度設計には高度なバランス感覚が求められている。

 

矢内氏はこうも述べる。

 

「空室税は所有の自由に制限をかけるものではなく、公共空間の健全性を保つための再分配機能の一環ととらえるべきだ」

 

真に問われているのは、“住む”ことと“持つ”ことの社会的責任の再定義なのかもしれない。

 

 

THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班

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