(※写真はイメージです/PIXTA)

社会保険料と税の徴収方式は、国によって制度設計が大きく異なります。日本では、各種社会保険が独自の法律と組織によって運営され、税とは明確に区別されていますが、アメリカでは「FICA税」として所得税と一体的に徴収されています。本稿では、日米両国における社会保険料の構成や徴収方法、制度の背景を比較しつつ、日本でたびたび議論される「徴収の一元化」構想の実現可能性について考察します。

日本の社会保険料の構成

社会保険料は、以下の5種類の保険制度に基づいて構成されています。

 

健康保険

厚生年金保険

介護保険

雇用保険

労災保険

 

ここでは、厚生年金保険、介護保険、雇用保険について見ていきます。

◆厚生年金保険

厚生年金保険法(昭和16年法律第60号)は、昭和29年に全面改正され、新たに厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)が制定されました。

 

公的年金業務はかつて社会保険庁が所管していましたが、平成22年1月に廃止され、日本年金機構が発足しました。日本年金機構は、厚生労働省年金局の所管であり、同省大臣からの委任・委託に基づいて、保険料の徴収や年金給付などを行っています。年金の積立金運用については、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が複数の金融機関に委託しています。

 

◆介護保険

介護保険は、平成9年に介護保険法が制定され、平成12年(2000年)4月1日より施行された制度です。40歳以上の国民は、公的介護保険に自動的に加入します。

 

◆雇用保険

雇用保険は、昭和22年に制定された失業保険法に代わり、昭和49年に雇用保険法が制定されました。雇用保険は政府が直接管掌する強制保険制度です。

米国のFICA

◆FICAの沿革

FICA(連邦保険拠出法)は1937年に制定されました。日本の厚生年金と同様、社会保障の資金調達が目的でしたが、1965年には医療保険税(Medicare Tax)が追加されました。

 

米国には日本のような国民皆保険制度はないため、医療保険税は、退職者・障害者・条件を満たした遺族などを対象とし、65歳まで支払う必要があります。

 

◆米国の社会保障

米国には、社会保障局(Social Security Administration)が所管する「老齢・遺族・障害保険(Old-Age, Survivors, and Disability Insurance)」があります。FICAはこの保険制度の財源であり、以下の2つの税から成り立っています。

 

社会保障税:12.4%(雇用者と従業員が各6.2%)

医療保険税(Medicare):2.9%(雇用者と従業員が各1.45%)

 

合計で15.3%が給与から控除されます。

 

◆保険料の徴収

保険料は、米国内国歳入庁(IRS)が徴収し、それぞれの年金や医療保険等の信託基金に信託されます。

 

◆徴収の一元化

米国における連邦税の根拠法は「内国歳入法典(Internal Revenue Code:IRC)」です。FICAはこのIRCにおいて雇用関連税として位置づけられており、IRSが徴収を担っています。FICAは「税」であるため、日本のような「社会保険料」とは扱いが異なり、徴収の一元化ではなく、IRSが本来徴収すべき「連邦税の一部」として位置づけられています。

 

まとめ

アメリカのFICAは、内国歳入法典(IRC)に組み込まれた形で、明確に「税」として徴収されています。IRSがその徴収機関として機能していることも特徴です。

 

一方、日本では、国民年金ひとつとっても徴収の一元化が困難であり、制度ごとに異なる根拠法、異なる所管省庁・機関が存在しています。このような制度的分断のため、日本において社会保険料を「税」として一体的に徴収することは、現状では困難であるといえるでしょう。

 

 

矢内一好

国際課税研究所首席研究員

 

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