ゴールドオンライン新書最新刊、Amazonにて好評発売中!
『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【基本編】』
加陽麻里布(著)+ゴールドオンライン (編集)
『富裕層が知っておきたい世界の税制【カリブ海、欧州編】』
矢内一好 (著)+ゴールドオンライン (編集)
『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【実践編】』
加陽麻里布(著)+ゴールドオンライン (編集)
シリーズ既刊本も好評発売中 → 紹介ページはコチラ!
法整備で制度的枠組みが明確に
2025年7月、米国においてステーブルコインの法的位置づけを明確にする新法が成立し、トランプ大統領が署名した。民間発の「デジタルドル」が、ついに法のもとで制度化された。法定通貨と連動し価値の安定を図るステーブルコインは、これにより、これまでにない信頼と透明性の枠組みを得たことになる。
国際送金や個人決済に革新をもたらす可能性を秘め、米国が国家主導のCBDC(中央銀行デジタル通貨)とは異なる道を選択した点にも注目が集まっている。
新法により、ステーブルコインは明確な制度のもとで取り扱われることになった。法定通貨と価値を連動させるステーブルコインについて、法律上の定義が初めて明示され、発行体には以下のような義務が課されている。
●発行残高と同額の準備資産の保有
●財務情報や準備資産の内訳に関する定期的な開示
●政府への登録義務
形式上は民間による発行であるものの、その厳格な法的枠組みは「準・公的通貨」ともいえる性格を帯びつつある。
暗号資産に詳しい森和孝弁護士(One Asia法律事務所)は、ステーブルコインの法的位置づけを明確にする新法が成立したことについて次のように解説する。
「既存の金融枠組み内でステーブルコインを『準・公的通貨』として位置づけたのは、ドル覇権をデジタル空間まで拡張するという文脈においても極めて合理的な戦略です。ビットコインを中心とする暗号資産の台頭が国家の金融政策無効化やドル基軸体制の動揺を招くと懸念されるなか、この領域においても覇権を維持しようとする米国の国益・国策・野心、さらにはその危機感が如実に表れた法制化といえます」
実用性と安定性を背景に存在感が拡大
法整備の背景には、ステーブルコインの急速な普及がある。価格変動が大きいビットコインとは異なり、法定通貨に価値を連動させることで、日常の決済や資産退避手段としての利用が広がっている。
市場調査サイトCoinMarketCapによれば、2024年末時点で主要ステーブルコインの合計時価総額は1,600億ドルを超え、その過半数は米ドル連動型である。
ステーブルコインの存在感は海外では急速に高まっている。森弁護士はこう指摘する。
「暗号資産取引の90%以上がステーブルコインによるものです。2024年の取引総額は約13.5兆ドル(約2,000兆円)に達し、ついにVisaのクレジットカード取引量を上回りました。実際、私が経営するドバイの不動産会社では、物件購入代金のうち約2割がステーブルコインで支払われています。価格の安定性、送金の迅速性、手数料の低さなどを背景に、支持が急拡大しています」
「暗号資産」から「正式な金融ツール」へと格上げ
今回の法整備により、ステーブルコインは単なる「暗号資産」から「正式な金融ツール」へと格上げされたといっていいだろう。国際送金への活用も進んでおり、老舗送金大手であるウエスタンユニオンのCEOは、法案成立直後に「ステーブルコインはリスクではなくチャンスだ」と述べ、自社サービスへの導入に前向きな姿勢を示した。
もし実用化が進めば、送金手数料の大幅な削減や即時性の向上が期待され、銀行など既存金融機関への競争圧力となる可能性がある。
民間主導の米国、CBDCとは異なる戦略を採用
さらに注目すべきは、米国がCBDC(中央銀行デジタル通貨)による直接発行ではなく、民間主導によるドル連動型デジタル資産の制度化を選択した点である。
中国やEUが中央銀行主導のデジタル通貨を試験導入しているのに対し、米国は既存のドル基軸通貨体制を維持・拡張するため、イノベーションを民間に委ねる形を採用した。
「ドルがすでに国際的基軸通貨であることを前提に、国家が直接発行するCBDCよりも、民間の創意工夫を活かして世界に広がる方が、ドルの支配力を保つには適している。まさに戦略的な制度設計です」(森弁護士)
「デジタルドル覇権」の構築へ…普及の鍵は「信頼」「実用性」
ステーブルコインが国際取引や個人間送金でさらに普及すれば、「デジタル空間におけるドル覇権」が一段と強化される可能性がある。為替手数料や規制コストの回避手段としても期待される。
森弁護士はこうも語る。
「各国で銀行の国際送金や両替手数料が高止まりし、送金規制も厳格であることから、ステーブルコイン決済は間違いなく加速します。たとえばドバイ政府が進める不動産のトークン化のように、実物資産でさえもデジタル化が加速しており、ステーブルコインはその中核的インフラとなりつつあります。ステーブルコインが身近な存在になればなるほど、自国通貨連動のステーブルコイン—日本であれば円(JPY)のステーブルコイン—の普及が、次の鍵となるでしょう」
今後、ステーブルコインが日常的な決済手段としてどこまで浸透するか、また、既存の銀行口座や現金に代わる手段となるかは、ユーザーの信頼と実用性にかかっている。制度は整った。次に問われるのは、現実の経済における活用の広がりである。
THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班
