(※写真はイメージです/PIXTA)

芸能人やスポーツ選手といった高額所得者には、国境を越えた報酬と課税の複雑な問題が付きまといます。租税条約をめぐる解釈やタックスヘイブンの活用、さらには著名人による脱税事件は、国際税務の最前線を浮き彫りにします。メッシの脱税事件を通じて、その実態と課題を探ります。

メッシの脱税事件と国際税務

2013年6月22日、サッカー界のスーパースター、リオネル・メッシが約5億円(約416万ユーロ)の脱税容疑でスペイン当局の捜査を受けた事件がありました。これは主に肖像権使用料に関するもので、内訳は以下のとおりです。

 

2007年:106万ユーロ
2008年:157万ユーロ
2009年:153万ユーロ

 

当時の経済誌『フォーブス』による「スポーツ選手長者番付」でメッシは世界10位にランクインしており、広告出演料だけで年間2100万ドルを得ていたと報じられています。

 

脱税スキームは2005年、メッシがまだ18歳になる前に、父ホルヘ・メッシ氏が企てたとされ、その後メッシ本人も同意の上で実行されたとみなされました。

 

2015年10月、スペインの裁判所はメッシと父親に対して、それぞれ禁錮1年10か月を求刑。最終的に2016年7月6日、両名は禁錮21か月の有罪判決を受けました。ただし、スペインの法律では2年以下の禁錮刑には執行猶予が付き、収監は回避されました。

 

その後、スペイン検察当局と合意し、禁錮刑の代わりに25万2000ユーロの罰金を支払ったと報道されています。報道によれば、メッシの所得はベリーズおよびウルグアイに所在する法人を通じて隠蔽されていたとされています。

ウルグアイとベリーズの税制

ウルグアイはアルゼンチンの隣国で、正式名称はウルグアイ東方共和国。国土は日本の約半分、人口は約346万人。1825年にスペインから独立しました。

 

同国の税制は属地主義を採用しており、国内で発生した所得のみに課税されます。法人税率は25%で、外国からの投資に対しては各種の優遇措置もあります。日本とは2019年9月に租税条約を締結しました。

 

また、近年は金融口座自動的情報交換制度(AEOI)に参加していますが、メッシの事件が起きた当時は制度が存在しておらず、かつ今回の脱税は金融機関の口座ではなく法人を使った所得隠しであったため、対象外とされます。

 

ウルグアイは「国外源泉所得軽課税国等」としてタックスヘイブンに分類されることもありますが、国際的にはそれほど著名なタックスヘイブンではありません。ただし、アルゼンチン国籍のメッシ親子にとっては、地理的・文化的に身近な存在であったと考えられます。

 

一方、ベリーズは中央アメリカのユカタン半島の付け根に位置する国で、1981年にイギリスから独立しました。法人税率は25%です。なぜこの国がメッシの脱税スキームに使われたかは明らかになっていませんが、法人設立が容易である点が背景にあった可能性があります。

スペイン当局はなぜ脱税を摘発できたのか

本件では、金融機関の隠し口座ではなく、ダミー法人による所得分散というスキームが使われていました。スペイン当局は、メッシに関する広告出演などの公開情報を基に推定課税の可能性を探り、関係書類の精査などにより脱税の実態を明らかにしたものと思われます。

 

矢内一好

国際課税研究所首席研究員

 

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