「減税」と「年金」が衝突する…トランプ政権の財政政策がもたらす深刻な余波【国際税理士が解説】

「減税」と「年金」が衝突する…トランプ政権の財政政策がもたらす深刻な余波【国際税理士が解説】
(画像はイメージです/PIXTA)

トランプ大統領が掲げた「One Big Beautiful Bill」と呼ばれる大型減税法案が成立し、米国の財政と社会保障制度に大きな影響を与えつつあります。表向きは高齢者の税負担軽減をうたうこの政策ですが、実際には年金受給額の非課税化は見送られたうえ、社会保障信託基金の枯渇時期が早まるなど、制度の持続性に深刻な影響が出ているといいます。

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財政と年金制度への影響

トランプ大統領が掲げた「One Big Beautiful Bill」と呼ばれる大型減税法案が、議会を通過し、大統領の署名を経て正式に成立しました。この法案により、今後10年間で5兆ドル(約740兆円)にのぼる追加の財政赤字が発生するとの試算があり、共和党内でも波紋を呼んでいます。

 

トランプ氏は当初、「この法案が成立すれば、Social Security(公的年金)の受給額には課税しない」と発言していました。しかし、実際に成立した法案には、公的年金受給額を非課税とする条項は含まれていません。その代わりに、65歳以上の高齢者に対して年間6,000ドル(約90万円)の追加所得控除が設けられました。

 

この控除をめぐって、社会保障庁(SSA)が「90%以上の受給者が連邦税を支払わなくて済む」と誤解を招くメッセージを発信したため、後に「控除により税負担が軽減される」という内容へと訂正される事態に発展しました。

年6,000ドルの控除

新たに設けられた年間6,000ドルの追加控除は、以下のように所得水準に応じて適用されます。

 

独身者:年収7万5,000ドル(約1,050万円)以下で全額適用

夫婦合算:年収15万ドル(約2,200万円)以下で全額適用

 

これを超える所得については、控除額が段階的に縮小されます。

 

一方で、公的年金に対する課税制度そのものに変更はなく、他の所得を含めた「合算所得」に基づいて課税対象が決まる仕組みが維持されています。

 

  • 独身者の場合:年収が2万5,000〜3万4,000ドルの範囲で、受給額の50%が課税所得に加算
  • 夫婦合算の場合:年収3万2,000〜4万4,000ドルで、同様に50%が加算
  • 上記を超える場合:最大85%が課税対象 

 

特に問題なのは、これらの課税基準がインフレに応じて調整されていない点です。物価上昇が続く中、課税対象となる年金受給者の割合は年々増加しています。

 

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